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アイツがあたしにくれた夏
【コメディ 恋愛小説】

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誠意のカタチ-10

瞬きを何度もしてみるけど、目の前の景色は変わらない。


マスカラが丁寧に塗られた睫毛があって、茶系のアイカラーが瞼を綺麗にグラデーションを作っている。


そして、恐ろしく柔らかい唇の感触。


翔平とするキスよりフニャフニャ柔らかくて、まるでマシュマロが口に押し付けられてるみたいだった。


目が点になるってこういうことを言うのだろうか、直立不動のまんま、里穂ちゃんにされるがままになってるあたしは、頭が真っ白になって、何も考えられなかった。


ほんの少し開いた唇の隙間から、里穂ちゃんの舌が侵入しようとする。


両頬を彼女の小さな手で押さえ付けられながら、このまま深いキスに突入される、その時。


「ま、松本! お前何してんの!!」


と、翔平が里穂ちゃんの身体をあたしから引き剥がす様子が目に飛び込んできた。


アワアワと口をパクパクさせながら里穂ちゃんに何か言おうとしている翔平は、言葉が出てこないみたいであたしと彼女を何度も見返してる。


周りのみんなも一様に唖然としたまま固まっているし、この状況が飲み込めないのだろう。


でも、一番状況が飲み込めてないのは、きっとあたし。


だって、あれほど敵意を剥き出しにされて、怪我しそうになった所を助けても逆ギレされるくらい嫌われていた、はずなのに。


なんで、里穂ちゃんにキスされてんの?


ってか、里穂ちゃんは女の子だし、あたしも女で……。それより何よりあたしは翔平と付き合ってるのに……。


そこまで今の状況を整理すると、自分がされたことの重大さに気付いたあたしは、口元を手で押さえながら首を何度も横に振った。


そんなあたしをジッと見ていた里穂ちゃんは、突然深々と頭を下げてきた。


「小夜さん、今まで酷いことして苦しめてしまってすいませんでした!」


「へ……?」


「あたし、駿河さんの気持ちだけじゃなく、小夜さんが駿河さんのことを好きなの、最初からわかってました。でも二人がなかなかくっつかないのをいいことに、小夜さんの気持ちを押さえつけて、無理矢理協力させて、ホントにごめんなさい……」


ハラハラ涙を流しながら謝る彼女は、以前の里穂ちゃんに戻っていたような気がした。






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