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アイツがあたしにくれた夏
【コメディ 恋愛小説】

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誠意のカタチ-1

「えー、この度長い間スウィングに貢献してくれた駿河くんが、就職活動に専念するために退職することになりました。貴重な戦力が抜けてしまうのは痛いし、僕個人的にもすごく寂しいのですが、ここは涙を飲んで彼の前途を祝して送り出したいと思います!」


少し涙ぐんでいたせいか、少し湿った声の店長の挨拶が個室のお座敷に響く。


上座で立ち上がって挨拶をする店長の横で、少し照れ臭そうにジョッキを持ってスタンバイする翔平がなんだか可愛くて、こっそり目で合図を送ると、ヤツは口パクで「こっち見んな」って赤い顔で睨み付けてきた。


そんなあたし達を目敏く見つけた店長は、


「あー、せっかく挨拶してんのにイチャイチャすんのは止めて下さい」


なんて、わざと大きな声で注意をした。


店長の言葉にドッと笑いが起きる。そんな和やかな雰囲気のもと、


「それでは、駿河くん、今までお疲れ様でした! カンパーイ!!」


店長の威勢のいい音頭で送別会が始まった。






居酒屋の個室を借りて集まった、あたし達スウィングご一行。


スウィングの閉店作業を終えて始まった送別会。


次の日の早番の皆さんは参加できなくて、全員が揃うことは出来なかったけど、早番の皆さんは、花束や就活用のネクタイなんかをプレゼントしていたみたいで、ここでも翔平の人望の厚さが伺えた。


ほら、今だって店長の横に座る本日の主役は、みんなに囲まれお酌されて。


上機嫌に笑いながらジョッキを傾ける翔平の姿を目を細めて見守ってから、あたしは大好物の唐揚げを口の中に放り投げた。


「いーの? 彼氏にお酌しなくても」


スススとあたしの隣にすり寄ってきた絹子が、「ん」と言いながらジョッキにビールを注いでくれる。


七分丈のゆったりしたドルマンスリーブのカットソーから覗く細い腕が、こっそり翔平を指差していた。


少し長くなった袖に、夏が終わったんだなあなんてボンヤリ考えながら、あたしは絹子の顔を見てニッと笑う。


「いいよ、みんなと楽しそうに話してるし、邪魔したくない」


「おー、彼女の貫禄ってやつですか」


ヒュウッと口笛を吹くみたいに口をすぼめた絹子を一瞥してから、あたしはすでにお酒で赤くなった翔平の姿に目を細めた。









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