名前で呼んで-6
Tシャツ越しに彼の鼓動をじんわり噛み締めていると、耳元で低い声が囁かれた。
「なあ、さっきの俺の言ったこと、聞いてなかったの?」
「え?」
「『名前で呼んで欲しい』っつったじゃん」
「あ……」
咄嗟に、告白の練習を本人に聞かれていた恥ずかしさがこみあげてくる。
だからあたしはその熱い顔を悟られないように、駿河の胸に顔を埋めた。
「アレ、すげえ嬉しかった」
「やだ、あんなカッコ悪いの」
「カッコ悪くねえよ。ビシッと仁王立ちで指差しするあの姿、男らしくて惚れちった」
男らしいなんて、乙女のあたしに似つかわしくない言葉に唇が尖ってしまう。
現にその言い方もなんだか茶化すような言い方だし。
「男らしいなんて嬉しくないんですけど」
「んじゃ、今度は可愛く言って」
人が必死の思いで告白したってのに、からかってんのか、コイツは。
小馬鹿にされれば逆らいたくなるのがあたしの性分。
「ヤダ」と言おうと顔をTシャツから離そうとしていた所で、ふと動きを止めた。
ん……?
触れていた指先から伝わる駿河の鼓動。
意識してみれば、それはバクバク早鐘を打ち鳴らしている。
さらにはあたしの身体を包み込むその手も、服越しだけど、とても熱を持っていた。
……駿河。
余裕をかましたクールな駿河の、正直な身体の反応がなんだかとても愛おしくて、尖った唇もフニャリと弛んだ。
大好きでたまらない。
想いのゲージが満タンになると、自然に言葉が口からこぼれ落ちるように、ポロリと呟かれた。
「……翔平、好き」
照れ臭さと愛を込めた、渾身の告白。
素直にもう一度言うなんて、思わなかったのだろう。少し驚いた表情で、彼はあたしの顔を覗き込んだ。
ねえ、駿河……ううん、翔平? あなたが望むなら、あたしは何度でも想いを口にするよ。
だから、あなたもあたしのこと――。
その瞬間、柔らかい唇があたしのそれに重なってきた。
身体をしっかり支えながらあたしにくれたキスは、とても優しく幸せな気持ちになれた。
そして、ゆっくり離れた濡れた唇が、妖しげに弧を作るその表情にトクンと胸が締め付けられる。
やがて彼も、
「俺も大好き。……小夜」
と、ずっと呼んで欲しかった名前を静かに呼んでは、誰もいなくなったショッピングモールで、何度も何度もキスを交わし合った。