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アイツがあたしにくれた夏
【コメディ 恋愛小説】

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名前で呼んで-4

「あんな上げて落とすみたいなひどい振られ方したってのに、お前のことが頭から離れてくれやしねえんだ。そんな状態で黙っていたら、松本が言ったんだ」


「え?」


「『駿河さんの気持ちは、最初からわかってました』ってさ」


……里穂ちゃん。


駿河を見てはしゃぐ、里穂ちゃんのキラキラした笑顔が瞼の裏に浮かんで、あたしの瞳をツンと痛くさせた。


「アイツ、言ってた。俺の気持ち知ってたから、お前にわざと協力してもらうように頼んだって。……実際、そうだったんだろ?」


「う、うん……」


「それで、やっと合点がいったんだ。さっきの帰り間際のヘッタクソな演技。それだけじゃない、花火大会の日のバイトが終わってからの打ち上げの話が出た時のわざとらしい辞退の仕方。あれ、全部俺と松本を二人っきりにさせるつもりだったんだろう?」


そこまでバレていたのなら、あたしは首を縦に振るしかない。


それを見た駿河は、片眉を上げて笑いながらあたしの髪の毛をクシャリと握る。


「……お前がそんなまどろっこしいことするからややこしいことになるんだろ」


そんな呆れかえった笑顔や、その仕草すらも胸をドクンと高鳴らせる。


ただただあたしに向けてくれるその笑顔に俯いて涙を溢していたら、大きな手があたしの頭を少し乱暴に撫でてくれた。


「……なあ、恋人ごっこをしてた時のあのフリは全然ヘタクソに見えなかったんだけど、やっぱりあれも演技だった?」


やがて駿河はジッとあたしを見つめると、そう訊ねてきた。


その瞳には、不安の色が少し混ざっていて、時折尖った喉仏が上下に動いている。


あたしは、静かに首を横に振った。


「……演技なんかじゃない。あたし、あの時は本気で駿河の彼女でいた。キスされて、抱かれて、本当に嬉しかった。初めてを駿河にあげることが出来て、本当によかったって思ってる」


「古川……」


「駿河、ごめんね……。あたし、ずっと自分で自分の気持ちに気付かない振りしてた。あのケンカばかりしてじゃれ合う関係が居心地良すぎて、好きだと認めたらあの関係が壊れてしまうんじゃないかって、怖かったから、自分の気持ちに目を背けてた」


次々に溢れてくる想いが言葉となって紡ぎ出される。


そしてあたしは、彼の瞳を見ると小さく息を吸い込んだ。



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