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アイツがあたしにくれた夏
【コメディ 恋愛小説】

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名前で呼んで-3

数日前に感じたあの温もりが再び蘇る。


壊れそうになるくらい、しっかりあたしを抱き締めてくれるこの腕の力強さがただただ嬉しくて、背中にまわした手で、彼のTシャツをギュッと握りしめたあたしはオイオイ泣きだしてしまった。


「駿……河……。ご……め……、ごめ……」


ちゃんと謝らないと、告白する資格なんてないのに、「ごめんね」の、たった四文字が嗚咽のせいでうまく言えない。


そんなあたしに、彼は呆れたようにフッと笑って、


「わかってるから、とにかく落ち着け」


と耳元で囁きながら何度も頭を撫でてくれた。


彼の指が髪の毛の上を滑る度に心がどんどん落ち着いてくる。


次第に嗚咽も収まってきたのを見計らって、あたしは意を決して顔を上げた。


「……どうしてここに来てくれたの? 駿河、里穂ちゃんに……」


「ああ、告られた」


やっぱり、里穂ちゃんの決意は形になったんだ。


同時に胸の鼓動が速まっていくのを感じる。


「駿河、……なんて返事したの?」


早鐘を打ち鳴らす心臓。彼の口から答えを聞くのはすごく怖くて、駿河の身体にまわした腕にさらに力を込めた。


「俺がここにいるってことで察してくれねえ?」


「え?」


耳元でフッと笑った駿河はあたしのこめかみ辺りの髪の毛に指を差し入れ、梳くように撫でながらさらに続けた。


「自分でもバカだって思うよ。振られた女より、好きでいてくれる女と一緒にいれば幸せになれるって、普通はそう思うだろ。まして松本は可愛いし、イイ娘だし」


「…………」


「でもさ、面と向かって『付き合って下さい』って言われてるのにどうしても頷けなかったんだ。目をウルウルさせて上目遣いっていう最強コンボで言われてるあの状況で」


髪の毛を撫でていた手はスルリとあたしの肩に降りてきて、抱き合っていた身体が離れ、互いの顔がよく見えるようになる。


街灯に照らされた駿河の瞳は、ほんの少し潤んでそれがやがて緩やかなカーブを描いた。


「不思議なもんで、松本のあの表情よりも、前にお前が休憩時間の時に鏡の前で作ってたタコみたいな顔の方が恋しくなったんだよ」


そう言って彼は、あたしのおでこをピンと軽く弾いた。


明らかにバカにされてるのに、あたしは嬉し涙で駿河の意地悪な笑顔がよく見えなかった。





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