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不貞の代償
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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不穏-6

「君は岩井という名前の政治家を知ってるか?」
 石橋が頷くと「俺、この前会ったんだよ」と下あごを突きだし、たちまち自慢げな顔で反っくり返った。
「ありゃタヌキだな」
 湿った手で肩を抱かれた石橋は、能面のような表情でジョッキをつかんだ。岩井とのやりとりで田倉の無能さを延々と語った。
 そのあと何軒か付き合うことになり、最後はケチの沼田としては珍しく、女のいる店に石橋を連れていったのである。
 石橋が田倉ついて何かを言いよどんだことが、なぜか気になっていたからだ。こういう事に関して沼田は鋭い嗅覚を発揮する。
 両側に座ったホステスに次々に抱きついたり、スカートの中に手を入れたりして石橋は大はしゃぎだった。沼田から次々に酒を飲まされ、節度の効かぬ石橋はしたたかに酔い、ついに田倉と奈津子のことを暴露してしまったのである。さすがに不倫であることまでは口にしていない、今はまだ……。
 沼田は、「なんだ、そんなことかよ」――と目を瞑り首を振った。「女くらいいるだろう、あいつなら」むかつくけどよ、と会社でのモテ度を一応は認めていた。ふやけたような手のひらを上に向け、外国人がするような――参ったぜの――ポーズをして見せた。この仕草がこれほど似合わない男はいない――のような顔で、水割りを作る手を止めて、隣の女があんぐりと口を開けていた。
「なんだぁ、まったくもう。おごって損しちゃったぞ」
 沼田は「なあ」と言いながら、豊満な体つきの女の腰に手を回し同意を求め、ホルスタインのような胸をすくい上げて、たちまちやけた顔になる。
「そんなこと言わないで、このおつまみ取って欲しいわ。わたしたち歩合制だから大変なのよ」
 女は表面がベトベトしたメニューを沼田に渡して、しなだれかかる。
 田倉のことなどどうでもよくなった沼田は「メニューなんてあんのかよ。暗くて見えねえよ」と、老眼の目をしょぼつかせている。
「そうよ、そんな話よりボトル入れてくれると嬉しいわ」
「ねえ、お金持ってるんでしょ」
「オチンチン触るからさあ」
「大っきいんでしょ、これ」
 ケラケラ笑い、口々に言いたい放題の女たちは、子供のように口を尖らせている石橋を見て気が咎めたのか、「へー、付き合ってるんだ」「誰と誰が? ねえ教えて?」「会社の人なんでしょう? 今度ここに連れてきてくれる?」などと機嫌を取る。
「本当ですから」
 立ちあがろうとする石橋を女たちが押さえつけた。沼田は「帰れ帰れ。おい、金は払ってけよ」と手を振りながらホルスタイン女のムチムチしたふとももを撫で回している。「和菓子のすあまみたいだな」と、にやけ顔の沼田はもう石橋など眼中にはない。
 石橋も女たちに体を触れられて、たちまちだらしない顔になる。もちろん言い寄るのはボトルもつまみも取っていないので、今帰られては困るからである。
 ホルスタイン女も石橋にすり寄ってしまったので、沼田はまた例のポーズを見せて口をへの字に曲げている。
「本当ですから」
「もう誰も嘘だなんて言っていないでしょう?」
 石橋は女に体を揺すられて、沼田に向けた人差し指をユラユラさせている。
「分かった分かった、俺を指さすんじゃねえ、石橋ぃ」
 日頃から田倉のウィークポイントを探っているのだが、悪評を耳にしたためしがない。お偉方にこっぴどくしかられた田倉に、追い打ちをかけることができれば痛快だ。そう思って沼田のアンテナに引っかかった石橋を連れ回しているわけだ。女がいたとしても田倉は独身だし、今までもそんな話はいくつも耳にした。店の女たちが石橋の味方しているので、とりあえず相槌を打つしかない。
「写真もあります」
 石橋の言葉に「ん?」と反応する。すぐに目を細め疑わしい顔で「じゃあ、見せてみな」と短い腕を伸ばし、ふやけた手のひらを見せた。
 女たちも「見たい、見たい」とはしゃいでいる。
 石橋は上着のポケットから財布を出した。思った以上に財布が膨らんでいるので、女たちは互いにチラチラと視線を送り、口元をにんまりさせている。写真なんかどうでもよい。それより財布だ。
 石橋はお札をつまみ丁寧にずらしながら、間に挟んである写真を宝物でも扱うようにそっとつまみ上げた。女たちは順番に並んだ千円札、五千円札、一万円札が全部同じ向きに、それはきれいに並んでいるのを見て、石橋からのけぞるようにして体を離した。
 石橋からくれぐれも丁寧に扱うよう念を押された沼田は、太い指先でチョンとつまんだ。渋い顔の沼田は背広からとうとう老眼鏡を取り出した。
「何だ、この写真。誰だよ、この女」


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