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不貞の代償
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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不穏-5

 例の保全地区に関する件でお偉方に呼び出され、田倉と沼田は散々油を絞られた。特に田倉のふがいない行動――岩井氏とのやりとりを沼田が詳細に解説したことは言うまでもない。これで田倉はマイナス評価は必至だ。といったわけで沼田の機嫌はすこぶるよい。
「石橋君、親交を深める意味で、たまには課全員で飲みに行くとしよう。君が段取りをしてくれないか。忙しい時期ではあるが今日は全員定時としましょう」
 かつて沼田の口からそんな言葉を聞いた記憶はない。
 突き出た腹を抱え、沼田はご機嫌なようすでフロアを歩き回っている。パソコンを操作している女子社員の後で一緒になってモニターを覗き込み、うんうんと頷いている。その女子社員が沼田を避けるべく上体を四五度も斜めにし、横を向いて顔をしかめていることに気付かない。石橋は隣の女子社員に目をグルッと回して見せたが、その女子社員は後ろを振り向いてほかの社員にうんざりした顔を見せていた。女子社員と気持ちを共有した気分になっている石橋もまた哀れであった。
 男子社員らは何かと理由を付けて断るが、女子社員はあからさまに嫌な顔をしていて手と首を振っていた。人望のかけらもない沼田のお誘いなど誰も洟も引っ掛けない。
 皆が断る理由の中に、沼田だけのせいではないことに思いが至らなず、石橋は「勘弁して欲しいよな」と、男性社員や女子社員に耳打して回るお気楽さであった。
「君は行くんだろう?」と憮然たる表情の沼田に念を押され、断れるはずもなかった。こうして参加者は沼田と石橋のお二人さんに決定した。
 一番安い居酒屋で二人の陰気な中年男は、一番隅のうす暗いカウンターに押しやられ、仲よく並んで座ることとなった。
 沼田の話はどこそこのソープランドの女がいいとか、相手にされなかったせいに決まっているが「キャバクラの女? ありゃあ低俗だぜ」など、聞きもしないのにしたり顔で石橋の肩をパンパンと叩いた。
 更には女子社員を名指しで「なあ、○○さんのケツはプリップリだよな、そう思うだろう?」、「資料をもらったときにさ、△△女子の手に触れちゃったのよ。いやー、柔らかい、柔らかい。あれに握られちゃったらどうする?」だの、果ては仕事の話をしただけなのに「沙也加嬢は俺に惚れているんじゃねえかな。俺の顔見るといつも色っぽい顔で笑いやがるんだ、ふふふ」と、にやけた顔をグッ寄せてくる。酔うほどに下品な話しから会社の愚痴をウダウダとこぼし始めた。
「昔はなぁ、田倉はよう、俺の部下だったんだぜ。知ってるかぁ? 俺より年下のあの野郎が部長で、なんで俺が課長なんだよ。おかしいだろう? なあ石橋ぃ」
 語尾を伸ばしながら石橋に絡み、タラコのような唇を尖らせ、チビリチビリとビールを啜っている。誰がどう見ても有能な田倉の昇進は頷けるのだが、沼田はそうは思わないらしい。
「でもよ、田倉の野郎、本当は情けねえやろうよ。そのうち墓穴でも堀やがれってんだ」
 田倉の名に反応し、石橋は不機嫌になった。ビールジョッキをテーブルに叩きつけるように置いた音で、小心物の沼田は一瞬怯えた表情になったが、どうやら自分のことではないらしいと分かったのでホッとした。
「どうしたの? なんか気に障ったのかい?」
 猫なで声で石橋の顔を覗き込む。
「いえ、部長の話が出たんで……」と言いよどんだことに、目ざとく反応する。
「ないだい、田倉がどうしたって? ん?」
 小さな目を見開き好奇心いっぱいの顔を見せる。
「いや、何でもありませんよ」
 石橋はげその唐揚げにかぶりつき――こんなアホブタに言ってもしかたないだろうが――のような顔で素っ気なく答えた。
「水くさいな。僕と君の間柄じゃないか」
 石橋は興ざめした顔でチラッと横を見ると、体ごとこちらに向け、黄色い歯を見せている沼田の丸い大きな顔があった。


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