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不貞の代償
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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不穏-3

「どうして妻の旧姓を知っているんだい?」
 驚きつつ、打った後頭部に触れる。
「ああ、そうか、佐伯君は知らなかったのか」
「いや、知ってるけど、え? どういうこと?」
 話がかみ合わない。
「石橋君は僕の妻を知っているの?」
「もちろんだよ」
「……」
「知りすぎていると断言してもいい」
 突然、手をあげた石橋にギョッとしてのけぞる。石橋はやってきた店員に酎ハイを頼んだ。
「知りすぎて……」
 店員が下がると「説明をしてもらってもいいかな」とあえぐように言う。
「何を?」
 間延びした声で聞き返す。
「今君がいっていたことだけど。僕の妻のこと」
 いらだつ気持ちを抑える。
「うん? ああ、そうだった、進藤さんだ」
 石橋はうれしそうな顔でパチンと手をたたいた。義雄は言葉を失う。
「しかたがないなぁ。じゃあ佐伯君に教えよう」
「是非、知りたいな」
 石橋の大学時代の出来事を拝聴することになった。酔いのせいで舌はもつれていた。つまみを口に放り込んだり、酎ハイを喉に流し込んだりすると、話が別の方向に向かう。そのたびに催促して、義雄は辛抱強く耳を傾けた。
「……というわけで進藤さんのことはよーく知っている」
 焼き鳥を旨そうに噛みしめる石橋の横顔を、義雄は唖然とした顔で見つめていた。
「そうか、そうだったのか。――そういえば昔、別の学校のゼミを聴講したと言ってたような……」
「ふーん、そんなことを君に報告していたのか」
 石橋はつまらなそうに、冷たくなった肉じゃがを箸で突いている。
「べつに報告ってほどじゃないけど。でも驚いたな。君は妻を知っていたんだ。世間は本当に狭いなぁ。でも部外者でもうちのゼミ聞けるんだ」
「聞ける。その頃はもう進藤さんと付き合っていたの?」
 粘り着くような石橋の視線に慌てて目をそらした。
「え、ああ、うん、そう、そうかもしれない」
「かもしれないって、そんな程度のつきあいなの? 失礼な人だなぁ」
 両手を広げて肩をすくめる石橋に「いや、そうです」といい直した。
「でしょう。で、なれそめは何だったの?」
 頭を掻いて照れる姿に、石橋はムッとした顔を見せた。
「なれそめっていうほどのことはないけれど……」
 石橋は肘を突いて充血した目をジッと向けている。刺すような視線に怯む。
「大したことじゃないんだ」
「進藤さんと付き合うことが、大したことじゃないわけないでしょう」
 今度は唇を尖らせていた。もしかしたら石橋は大学時代、妻に気があったのだろうか。ここはへたに逆らわない方がいい。
「そうか、そうかな。だったら言うよ。大学生のときにアルバイト先が一緒だったんだよ」
「ふーん、どこの?」
 目が据わってきた。
「○○駅前の○○スーパーだけど」
 石橋は天井に目を向けしばらく考え「ああ、あのスーパーか。あそこは行ったことないな」と残念そうにつぶやいて「で、告白はどっちから?」と続けた。
「そんなことまで聞くのかい?」
「そうだよ。いいじゃない、もうずいぶん前の話なんだから」
 半分喧嘩腰だった。
「どちらからっていうようなことではなく、何となく自然に。でも僕かなぁ……」
「どっち?」
 ピタッと耳に張り付く石橋の声。
「僕です、はい」
「で、結婚は?」
「そこまで聞くのかい?」
「そう」
 怒気をふくんだ短い返答。
「うーん、結婚するときも僕の方から告白した。会社に入ってしばらくしてから」
 これでいい? ――のような顔で石橋の目を覗き込んだ。これで区切りがついた、と義雄はホッとした顔でジョッキを握った。
「一度だけコクられたことがある」
 そう言って石橋は二カッと笑った。
 驚くべき告白と、前歯に焼き鳥の炭がついた間抜けな顔にビールを吹き出そうになった。口を押えて慌てて飲み込んだ。
「ええ! 本当に」
 カックンと頷き、大きな声をあげた義雄に向かって、落ち着き払って石橋は人差し指を自分の唇に当てた。


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