クラスタ-8
「とりあえず要塞まで行きましょう。ノア、そこら辺の蔦で籠を作ってくれないか?」
「承知致しました」
デレクシスの言葉に恭しく頭を下げたノアは、早速呪文を唱えだした。
呪文に合わせて周囲にあった太い蔦がノアに集まっていく。
ランスは少し躊躇った後、パルに近づいてみる。
バトルが終わって興奮が治まったパルは、魔力を抑える事が出来ていた。
これなら多少、近くに居ても大丈夫そうだ。
それでも用心の為、ピィがパルを囲んで他の人間から遮断する形になる。
太い蔦が勝手に動いて自ら籠の形になっていくのを、テオは呆けた顔で見ていた。
「大丈夫かい?」
そのテオに手を差し出して聞いてきたのはデレクシス。
彼は呆けた顔のまま振り向いたテオを見て眉を潜めた。
「あれ?もしかしてテオドア?」
「へ?」
何で知ってるんだ、とテオの顔は益々間抜けになる。
「うわあ……大きくなったなあ……そうだ、ランスロット王子のひとつ下だからもう17だもんなあ」
デレクシスはちょこんとしゃがんでテオの頭を撫で撫でする。
「え?会った事……?」
「いやいや、覚えてないのも無理ないよ。赤ちゃんの頃は良く会ってたけど、最後に会ったのは君が3歳の時だ。ご両親は元気かい?」
この人は両親と知り合いか?派手な鷲を連れた派手な人……と、そこまで考えたテオの顔が驚きに変わる。
「あ!ああ!!軽薄王子!!」
ぶはあっ
指まで差して叫んだテオの言葉にランスは盛大に吹き出した。
「ははは……久しぶりにそのアダ名を聞いたよ……」
言われた本人のデレクシスは微妙な表情で笑う。
「父さんと母さんが護衛したっていうカイザスの王子だ!」
「正解」
寝る時の冒険話で良く聞いた……派手な風の精霊を連れた精霊人(せいれいびと)……彼が過去に跳んだという話は有名で、絵本にもなっているぐらいだ。
「アンタが……」
テオは思わずキラキラした目でデレクシスを見てしまう。
軽薄王子と叫んでしまったが、テオにとっては本から主人公が飛び出してきているような気分なのだ。
物語の人物が、今目の前に居る事が信じられない。
「まあ、そこら辺の詳しい事も要塞に着いてからにしようか」
デレクシスはテオの手をぐいっと引いて立ち上がらせた。