クラスタ-7
空気を切っているのは空気だった。
はっきりとは目に見えないが、何かがブーメランの様に飛んでいるのが分かる。
そして、ズンという音は輪切りにされた蛇の身体が地面に落ちる音。
空気の刃は次々と蛇を輪切りにしていき、最後には鈍く光る『核』を見つけ出してそれを砕き、シュッと音を立てて消えた。
「は いったい……?」
テオはゴクリと生唾を飲んで呟く。
口から出た声はみっともないぐらい掠れていて思わず咳き込んだ。
「ランスロット王子!」
頭上から先程聞こえた澄んだ声が聞こえる。
今度は普通の音量だ。
「助かりました。デレクシス様」
上を見上げたランスがリュディを胸に抱えたまま、反対の手を振る。
つられて上を見ると、妙に派手で妙に大きい鳥がバサバサと羽ばたいているのが見えた。
「ひっ」
まだ恐怖が残っていたテオが再び息を飲む。
しかし、巨大な鳥は突如姿を消した。
変わりに姿を現したのは30代後半ぐらいの紳士。
鮮やかな青いマントを翻し、優雅に地面に降り立った。
「こんな所でこんな魔物に襲われているなんて……迎えに来て良かったよ」
パタパタとマントをはたいた紳士の肩には、先程の巨大な鳥が小さいサイズで止まっている。
オレンジ色の身体に緑色の翼、青い頭の上に赤い飾り羽根……何とも派手派手しいが多分、鷲だろう。
紳士の方は柔らかそうな茶髪に所々赤いメッシュが入った、これまた派手な髪色をしていた。
しかし、その身のこなしは上品で優雅……どことなくランスに似ている。
「3日前には着く予定でしたからねえ、いやいやクラスタの魔物はさすがに強い」
ハッハッハと笑うランスに、デレクシスと呼ばれた紳士は盛大に息を吐いた。
「危険だから単独で来るなと言ったでしょう?」
「ん〜…仲間も出来たし行けるかなあって思ったんだけどねえ」
「仲間?」
デレクシスは改めて周りを見る。
腰を抜かして座り込んでいる情けない少年に、ランスの腕に抱かれている美女。
医療魔法以外はド下手くそな宮廷魔法使いに、謎の生き物に乗った謎の魔物少女。
「また、アンバランスな仲間を作ったものだね」
「自慢の仲間ですよ」
ヘラヘラ答えるランスだったが目は笑っていなかった。
本当に自慢しているのだ。