クラスタ-16
その頃、リュディとパルは魔物用の医務室に案内されてそこに居た。
丸椅子に座ったパルの目の前には、人間の身体……しかも、ナイスバディな女性の身体……に山羊の頭を持った魔物が白衣を着て座っている。
「はぁい。お口大きく開けてメェ?」
山羊の言葉に従い、パルは大きく口を開けた。
鼻先を突っ込む勢いで覗いてくる山羊に、若干引きつつもパルは何とか耐える。
「はい。ありがとメェ」
山羊はパルから顔を離すと、机の上のカルテにしなやかな指でペンを操り何やら書きこんだ。
「最後に完全体になったのは、約半年前かメェ?」
「うん。そん時あちこち破損したの」
「具体的には?」
「えっと……片腕は完全に千切れて、鱗も殆ど剥げてたかな?あ、顔は半分潰れてたし尻尾も3分の2は無かったよ」
足をぷらぷらさせながら話す内容に、リュディは悲痛な表情になる。
「そんなに……酷かったの……?」
「魔物にとっては大したこと無いメェ、大事なのは『核』だメェ?『核』さえ在ればいくらでも再生出来るメェ」
山羊はケラケラ笑ってペンを置いてパルに身体を向けた。
「うん。平気だよ?」
山羊先生の言う通り、とパルはキョトンと首を傾げる。
「そ……そう……」
こんな時、パルは魔物なんだと痛感する……リュディの理解の範疇を越えているのだ。
「黒海の影響で身体の破損が急速に再生されてるメェ。それが人間体だと上手く流れないから逆流して気持ち悪くなるメ?1度完全体に変わると良いメェ。魔力の流れがスムーズに成ればその後も上手く流す事が出来るメ」
「治ってるの?」
「完璧メェ」
山羊の答えを聞いたパルは両手を上げて万歳した。
「やった♪」
「でも、歓迎パーティーが終わってからメェ。さあ、おめかしおめかし」
パルが座っていた丸椅子をくるりと回した山羊は、パルを立たせるとリュディも一緒に別の部屋へと連れ出す。
連れていかれたのは巨大な衣装部屋だった。
「ふわぁ」
「凄い」
その膨大な衣装の量にパルはあんぐりと口を開け、貴族出身のリュディでさえ驚きを隠せない。
「はいはい。採寸致しま〜す」
何処からともなく現れたのは、人の手首から肘まで位の身長の妖精?
背中に透ける蝶の羽を生やしたり、真っ白な鳥の羽根を生やした彼女達は、自分達より大きいメジャーを操ってパルとリュディの身体のサイズを測る。