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アイツがあたしにくれた夏
【コメディ 恋愛小説】

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本当の気持ち-4

閉店時間に合わせてお客さんが次々と席を立って、グラスやトレイを返却口に返していく。


あっという間にいっぱいになった返却口。


フロア締めをしているあたしは覚束ない手でトレイを重ね、グラスをまとめるも、気もそぞろだった。


カウンターに座る里穂ちゃんと、カウンターの中で締め作業をしている駿河は、なんだか和やかムードで会話をしていて、そんな様子が嫌でも目に入ってくる。


あたしには向けてくれなかった笑顔を里穂ちゃんに向けているのを見るだけで気が狂いそうだった。


ダメ、仕事に集中しなきゃ。


二人の様子を振り払うように、小さく首を横に振ってあたしは次々に店を後にするお客さん達に頭を下げる。


わざとカウンターを見ないように、俯き加減でひたすらに食器をウォッシャー担当の店長の元へ運んでいく。


食器を下げる時は、カウンターの前を通らなきゃいけないから、なるべく顔を上げないでいよう。


そんな調子でフロアを駆け回っていると、


「っあ!」


と、突然受けた背中の衝撃と共に、パリンと鋭い音が響いた。


振り返って床を見れば、四方に散らばった小さな氷や、グラスの破片が木目調の床を汚していた。


「お客様、大丈夫でしたか!?」


すぐさまカウンターから飛んできた店長は、新品のダスターを持って、30代半ばくらいのサラリーマンに深々と頭を下げてから、スーツが汚れていないか確認していた。


どうやらあたしがぼんやりしている所に、よそ見をしていたお客さんのトレイが背中にぶつかったらしい。


サラリーマンは慌てて手に持っていたスマホをポケットの中に収めた。


自分の不注意もあると思ったのか、一見デキる男風のキリッとした顔が不安気にあたしを見つめて、


「いや、僕は大丈夫です。僕もよそ見していたから……」


と、申し訳なさそうに言った。


「いえ、完全に私どもの不注意です。大変申し訳ありませんでした。……ほら、古川さん」


何度も深々と頭を下げる店長は、やや鋭い視線をこちらに向けた。


その意味を知っていたあたしは、金縛り状態だった身体を震えつつもなんとか折り曲げた。




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