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アイツがあたしにくれた夏
【コメディ 恋愛小説】

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本当の気持ち-14

真夏の生ぬるい風が、あたしの前髪をやわやわ揺らす。


「あ、ゴメン……。大きな声出ちゃった」


唖然としたまま固まっているあたしを見て我に返ったのか、頭をガリガリ掻きながら頭を下げる店長。


表情はいつもの穏やかで頼りのないものに戻っていたけど、さっきの剣幕のせいか、あたしは何も言えなかった。


そんなあたしに構わずに続ける店長。


「つーか、わかるよ、古川さんの気持ちも。先に松本さんに駿河くんへの気持ちをカミングアウトされて協力するって言ってしまった手前、引っ込みがつかなくなったっての」


「…………」


「でも、好きって気持ちはカミングアウトしたもん勝ちなの? 好きって言ってしまえば相手の気持ち関係なしに言った人の物になっちゃうの?」


トーンの落ちた店長の声は、いつもの優しいものに戻っていて、その諭すような言いぶりがあたしの頭の中を冷静にさせていく。


「オレね、好きって気持ちに順番とか関係ないと思うんだ。だから、好きなら正々堂々と勝負してほしい。あ、もちろん好きな人が既婚者だったり恋人がいるような人なら勝負しちゃダメね。それは諦めなきゃいけない案件」


そう言って舌を出す店長だけど、次の瞬間には真面目な顔してさらに続けた。


「でも、駿河くんは結婚してるわけでも、彼女がいるわけでもない。だったら、順番関係なしに、松本さんと勝負してもらいたいわけよ」


「でも……」


それでも弱気になって俯いてしまうあたしに、店長は自転車のベルをリーンと鳴らして自分の方に注目させた。


「駿河くんも松本さんも、勇気出して自分の気持ち伝えてんだろ? ……だったら古川、お前も根性見せろよ」


ニヤッと口角を上げて、ちょっと凄みをきかせた店長。


そんな彼を目の当たりにしたあたしは、もう二度とこの人をいじってからかうのは止めよう、と心の中で決めた。


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