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真紅の螺旋
【アクション その他小説】

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真紅の螺旋『弦音誘惑』-5

「あの娘は君の子供かい?琴葉」
「はっ、馬鹿な事を言うな。ただの知り合いさ」
 女性──燕条琴葉はストラルを一瞥し、愛加によって二つに切断されたバイオリンを拾い上げた。
「しかし愛加も容赦ないな。提琴の名器、ストラディヴァリウスが真っ二つだ」
 言葉とは裏腹に、どうでも良さそうにストラディヴァリウスを後ろに放り、ストラルに向き直る。
「さて、お前には二つ選択肢がある。」
 琴葉は細い指を二本立て、ストラルに突き出した。
「今ここで死ぬか、『Crucifigare(断罪人)』に裁かれるか。私はここで死ぬことを勧めるがな」
 前者は琴葉に殺されることを、後者は琴葉やストラルが所属する魔術組織『賢人の協会(ウィズダム)』の断罪機関によって殺されることを意味する。
 選択肢は二つ。ストラルは迷うことなく選んだ。
「ここで、死のう」
 前者を。
 琴葉は満足そうに頷き、ストラルから数歩下がった。
「最後に質問させてくれ」
「何だ?」
「どうして彼女には僕の魔術が効かなかったんだい?」
「ああ、そんなことか」
 今まで忘れていたかのような口調。
「相手がお前だって解っていたからな。少し手を打っておいた」
「どのような?」
「愛加の耳にイヤホンあっただろ?あれは、何かしらの魔術が添付された音の振動と真逆の振動を発生させて、その音を魔術ごと打ち消す装置さ」
 お前じゃあ気付かないだろうな、と琴葉は締めくくった。
「まあ、愛加はあんな物使わなくても勝っただろうがな」
「どうして?」
「あいつは神だって殺せる。そんな人間がお前ごときに負ける訳がないだろ?」
「君にしては面白い冗談だね」
 ストラルは笑い、琴葉は苦笑した。
「さて、余計な話は終わりだ。潔く死ね」
 琴葉の言葉が終わるや否や、ストラルのいる床が淡く発光を始める。
「呪文は唱えないのかい」
 床を見たストラルは残念そうに言った。
「お前なんかには詠唱破棄で十分だ」
 次第に床の光が幾何学的な模様と文字列に変わり、輝きが強くなる。
「まあいい。冥土の土産に唱えてやろう」
「?」
 言葉はにやりと笑い、一言。
「『燃えろ』」
 途端に床の模様から炎が吹き出し、ストラルを包み込んだ。炎はあっという間にストラルを焼き尽くし、炎が収まった時、琴葉の前には誰もいなかった。
「悪いな。お前の国では土葬かも知れんが、ここは日本だ。火葬で我慢してくれ」
 ここにはいない人間に向かって一言、呟いた。
 
 こうして事件は幕を閉じた。
 
    〜
 
 翌日、つまり日曜日。二人は昨日の公園に来ていた。
「昨日はごめん」
「いいっていいって。気にしないでよ。もう終わったんだから。ね?」
 公園に着くなり愛加は絢に頭を下げていた。理由はストラルの潜伏先を特定させるため絢を利用し、気絶させるためとはいえ絢を叩いたこと。
 愛加の謝罪を一言で断ち切り、絢は子供達に近付いた。昨日よりも人数が多い。
「ねえねえ、お姉ちゃんも入れてよ」
「いいよー」
「何して遊ぶの?」
「えーとね、おにごっこ!」
 友達以外の人間と遊ぶのは初めてなのだろう。絢が話し掛けた時には四人ほどだったのが、十人近くまで増えている。
「ねえ、あそこのおねえちゃんは?しってるひと?」
 絢の服を引っ張りつつ、一人の少女が愛加を指差した。
「あのお姉ちゃんはね、あたしのお友達でーす」
 笑顔で答え、愛加に近寄る絢。子供達も刷り込みされた鳥の雛のように、ぞろぞろと絢の後を追ってくる。


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