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真紅の螺旋
【アクション その他小説】

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真紅の螺旋『弦音誘惑』-3

    〜
 
 翌日、愛加は公園のベンチに座っていた。隣には絢がいる。
「へえー。それでコレ貰ったんだ」
 愛加の耳にはイヤホン。昨日の帰りに琴葉から渡された物だ。コードは音楽プレーヤーではなく、何やら幾何学的な模様が施された筐体に繋がっている。
「子供って可愛いね」
 二人がいる公園では数人の子供達が遊んでいた。親の姿が見当たらないということはこの近所に住んでいるのだろう。
「そうね」
 愛加の顔にも自然と笑みが浮かぶ。子供を見ると癒されるのは本当らしい。
 と、二人の方にサッカーボールが転がってきた。その後ろを一人の男の子が一生懸命追っている。
「おねえちゃん、ボールとってー」
 舌っ足らずな声。
「ほらほら、お姉ちゃん、ボールを取ってあげなさい」
「わかってるわよ」
「そんな顔してると、あの子泣いちゃうよ」
「うるさい」
 絢に茶化され、愛加はボールを取ろうと立ち上がり、
 バイオリンの音が風に乗って聴こえてきた。
「この音!?」
 急いで周囲を見回すが、愛加達と子供達以外の人間はいない。
 音は徐々に大きくなる。それに連れて子供達の表情もだんだんと虚ろになり、ゆっくりと公園の出口に向かって歩き出した。
「絢、耳を塞いで。この音を聴かないで」
 子供達の動きと周囲の気配に気を配る。音は一カ所からではなく全方位から流れてくるため、方角の特定ができない。
「……絢?」
 素早く絢に視線を走らせ、絢も子供達のように目が虚ろになっているのに気が付いた。愛加の声を無視し、絢も子供達の後をふらふらと追い掛ける。
「……ごめんなさい」
 子供達が公園の外にでる寸前、愛加は子供達を軽く叩き気絶させた。しかし、愛加は絢を気絶させることなくそのままにしておく。
「できればここで仕留めたかったのに……」
 気絶した子供達をベンチに寝かせ、愛加は絢の後を追い、公園から出た。
 
    〜
 
 音源に向かって歩く絢を追い、辿り着いたのは古い屋敷だった。何年も放置されていたらしく、庭の草木が生い茂り、屋敷も窓や壁が壊れている。
 愛加は子供達と同じように絢を気絶させ、草木の影にそっと寝かせた。
 愛加は立ち上がり、玄関へと歩き出す。
 闇色の瞳が紅に染まる。
 一歩一歩屋敷に近付くにつれ、空気中に異臭が混ざり始めた。臭いはまさに腐肉のそれ。
 愛加は気にせず玄関まで辿り着き、一気に扉を開け放つ。同時に臭いも濃度を増す。普通の人間なら嗅いだだけで意識を奪われそうな臭いの中、愛加は奥へと進んだ。
 途中、部屋を覗くと何着か真新しい子供服が置いてあった。どの服も所々破け、乾ききらない血が付着している。
 ストラルの本拠地はここで間違いない。
 無意識に愛加は奥へと進む足を速めていた。
    〜
 
 数分後、愛加は屋敷最奥の部屋の前に立っていた。今にも崩れそうな屋敷に対し、その部屋だけが不自然に真新しい。
 バイオリンの音はすでに鳴り止み、屋敷は静寂に包まれている。
 愛加は部屋への扉を静かに開け、
 子供に噛みつく男──ストラル・ハンメルを見た。
 あまりにも濃い腐臭。
 愛加は嫌悪感を押し殺し、ストラルを見る。ストラルはすでに子供の上半身を平らげ、下半身を口に入れるところだった。


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