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アイツがあたしにくれた夏
【コメディ 恋愛小説】

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揺るがない決意-3

更衣室とは言っても、一畳分のスペースしかないそれ。


そんな狭い空間の中で、暑さで汗ばんだ服を脱ぎ捨てていくと、ブラとショーツだけの姿が鏡に映った。


自分の身体をまんじりと眺めれば、否が応でもあの日の夜を思い出してしまい、自然と顔が赤くなる。


この身体の隅々まで、駿河にさらけ出してしまったんだ……。


同時に、胸がチクリと痛む。


身体は全てさらけ出したのに、自分の想いはさらけ出せなかった、それが痛みとなってあたしを襲う。


女になった痛みが日毎に薄れていくのに反比例して、アイツを手放した痛みだけがジュクジュク化膿していく。


もう、この痛みに呑み込まれていくのなら、いっそのこと里穂ちゃんに自分の気持ちを伝えてしまおうか。


スタッフルームとはドア一枚で仕切られただけのこの空間。天井越しに彼女の上機嫌な鼻歌を聞きながら、あたしは考える。


そして、持っていたショップ袋から、スウィングの制服である白いシャツと黒いパンツを取り出すと、それらを身に纏いながら彼女に訊ねた。


「り、里穂ちゃん、今日はバイトないのに、どうしたの?」


まずは当たり障りのない切り出し方で、話しかける。


なのに、どもってしまうなんて、あたし怪しすぎ。


しかも声を出す前に咳払いなんて、動揺してるってバレちゃうじゃん。


でも、そんな不安をよそに、里穂ちゃんは歌うような明るい声であたしに答えた。


「えー? 駿河さんに会いたかったからですよぉ」


シャツのボタンを締めていた手がピタリと止まる。


軽い口調とは言え、駿河への想いをハッキリ口に出されると自分のしたことの罪の重さが大きな石になって、あたしの頭に落とされたような気になった。


冷や汗が背中を伝い、思わず身震い。


もし、あたしが駿河と寝たことを打ち明けたら、この明るい声で話しかけてくれるだろうか。


やたらと渇く喉のせいで、うまく相槌を打てなかったあたしは、しばらく黙ることしかできなかった。


里穂ちゃんはその沈黙をどう捉えていたのか、やがて彼女はケラケラ笑っては、


「やだあ、冗談ですよ? 来月のシフトを提出しに来たんです」


と、言うのだった。





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