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アイツがあたしにくれた夏
【コメディ 恋愛小説】

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揺るがない決意-2

一気に沈む気持ちになって、俯いたままカウンター前を通り過ぎようとすると、


「あ、古川さん」


と、店長に小さく手招きされながら呼び止められた。


ちょうどスタッフルームに入るためのカギを取ろうとしていたあたしは、何だろうと思いながらもカウンターの中に顔だけ出す。


「ああ、カギかかってないから」


「え、なんでですか?」


キョトンとした顔で彼を見ると、店長は温泉で艶々になった顔をこちらに向け、


「松本さん来てるから」


とだけ言って、なぜかチラッとレジをしている駿河の方を見た。








赤茶けたドアの前で、しばし動けないあたし。


里穂ちゃんにどんな顔して会えばいいのか、罪悪感に押し潰されそうになる。


だからと言って、いつまでもここに突っ立っているわけにもいかないし……。


暫く逡巡してから、あたしは重い手を振り上げてコツコツとドアをノックした。


「どうぞー」


思いの外明るい里穂ちゃんの声を聞きながら、ドアをギイッと開けると、まばゆいくらいの笑顔が飛び込んできた。


黄色いネオンカラーのタンクトップに重ね着された、かぎ編みのニット。細い足や小さなお尻のラインが綺麗に見える、黒ベースの小花柄の細身パンツ。


あたしがこういう花柄パンツなんて履いたら、パジャマとかおばさん御用達の量販店の服に間違われるのは確実だ。


でも、里穂ちゃんが履けばお洒落に見えるのは、彼女が可愛いからなんだろうな。


そんな健康的でカジュアルな服に身を包んだ里穂ちゃんは、ひまわりみたいな明るい笑顔であたしに


「おはようございまーす!」


と、挨拶してくれた。


その邪気のない笑顔に、後ろめたさ満載のあたしはついつい目を泳がせてしまう。


里穂ちゃんと駿河は付き合ってるわけじゃないから、あたしが駿河とセックスしたことは罪ではない、と思うけど、里穂ちゃんの気持ちを知った上で身体を重ねたのは、立派な裏切りだとも思う。


例え、あたしが自分の気持ちに気付いたとしても。


何となく里穂ちゃんと目を合わせられないまま、あたしは小声で「おはよ」とだけ言って、スタッフルームの奥にある、更衣室のドアを開けた。



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