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アイツがあたしにくれた夏
【コメディ 恋愛小説】

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揺るがない決意-1

「おはようございまーす」



たとえ、午後5時からでも、バイトに入る時は「おはようございます」と挨拶するのがスウィングのルール。


元気だけが取り柄のあたしは、なるべくいつも通りを装って、笑顔を作りながらお店に足を踏み入れた。







正直、あれからどんな顔して駿河に会えばいいのか分からなくて、花火大会の次の日のバイトは絹子に代わってもらってしまった。


絹子には、花火大会の日に靴擦れを起こす呪いをかけていたんだけど、なんとそれが効いてしまったようで


「あたし、足痛いんですけど」


と、ぶつくさ文句を言われたっけ。


絹子に靴擦れを起こす力なんていらないから、駿河があたしに笑顔を向けてくれる力が欲しいなんて、この時ばかりは心底そう思ってしまった。


でも、それはもう叶わない願い。


ちょうどレジをやっていた駿河は、あたしの方なんて一切見ないでサラリーマン相手に丁寧な接客をやっていた。


あたしと交代予定のドリンク担当の沼津さんは、小さく頭を下げてくれたと言うのに。


今まで通りに戻れないってのは、やっぱり夢じゃなかった。


「おはようございます」


一瞬で泣きそうになってしまうあたしに挨拶してくれたのは、カウンターの奥でサンドイッチを作りながら軽く頭を下げた店長だった。


奥さんとの温泉旅行から帰って来た店長の顔色はすこぶるよくて、普段の貧血なんじゃないかってぐらいの青白い顔とはえらい違いだ。


どことなく背筋がピンと伸びていて、お客さんが入ってくるたびに


「いらっしゃいませ!」


と、いつもより声を張り上げているし。


愛する人との旅行はこんなにも、仕事をやる気にさせてくれるもんなのか、とぼんやり店長を眺めていた。


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