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不貞の代償
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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進展-3

 食器を片付けていた奈津子は「はい」と返事をして慌てた様子で振り向いた。
「さっきからずっと呼んでいるのに、もう耳が遠くなったのかい?」
 半分からかいながら、ははは、と笑う。
「ごめんなさい、ちょっとボーッとして」
「最近どうも僕の話を聞いていないことが多いよな」
 ビールを飲みながら目をしばたたく。昇進するに従い仕事が増え、外での打ち合わせや接待などで飲む機会が増えた。「なんだ君、全然飲めんのか」と、昔堅気の取引先の相手から愛想も小想も尽き果てられ、交渉がおじゃんになった経験がある。もちろん酒が飲めなかったから、掛け合いがふいになったわけではないが、これではだめだと思いたち、こうして晩酌をするようになったのである。
 もともと下戸で、飲むとすぐに顔が赤くなる義雄の健康を気遣う奈津子は、あまりいい顔をしないのだが、缶ビール一個ならよしということになっている。結婚した当初は一滴も飲まなかったのに、慣れというのは恐ろしいもので、最近では夜になると飲みたくなる。
「そうかしら?」
「そうさ。恵もそんなこと言っていたよ」
 そう言って目を天井に向けた。テレビを見てケラケラ笑っていた恵は突然立ち上がり、二階の自分の部屋へ駆けあがっていった。テストがあることをすっかり忘れていたらしい。必死の形相で勉強をしている娘を思い苦笑した。奈津子は上を向いて口をへの字にして見せる。
 目線をコップの位置まで持っていき、ビールをコポコポと注ぎ入れながら「何か悩み事でもあるのかい」と聞いた。
「そんなの、ありませんよ」と言ってから「もう年なのかしらね」と続け空咳をして、「更年期障害かしら」と奈津子は困った顔で首を振って見せた。
「まさか」と笑いながら、「君も少し飲まないかい」と誘う。
「そうね、少しいただこうかしら」
 目の前に座るまで奈津子を見つめていたが、目が合うと慌てて視線を外した。
「やだ、なーに? ニヤニヤして」
「いやいや、何でもないよ」
 義雄はあたふたと立ちあがり、冷蔵庫からビールを取り出した。
「そこに残っているのでいいんですけど」
 奈津子はテーブルの上の缶ビールを指差して目を三角にしている。
「まあ、そう言わずに、冷たい方が美味しいからさ」
 しょうがない、といった顔で立ち上がろうとする奈津子を制し、義雄はダイニングボードの引き出しから乾き物の袋をガサゴソと引っ張り出し、皿や新しいコップを持ってきたり、甲斐甲斐しく動き回り、奈津子のためにビールを注いだ。
「どうもありがとう。それじゃあ、遠慮なくいただきます」
 仰々しくコップを掲げ乾杯をしたあと、グイと喉に流し込んで「やっぱり美味しい」と言い放ったのである。義雄はだらしなく口を開けて、奈津子の飲みっぷりを見つめていた。
「始めて君とお酒を飲みに行ったとき、結構飲めるので驚いたよ」
「まあ、またその話ですか」
 義雄がまだ四分の一も飲まないうちジョッキを空にして、近くを横切った店員に人差し指を立ててもう一つ注文したのだ。奈津子は覚えてないと言い張っている。
「いやいや、そうじゃないよ。怒らないで聞いて欲しいのだけどね」
「はいはい、何でしょう」
「奥さんでさ、お酒の大好きな人はいるだろう。いや、君のことじゃないよ」
「はいはい」
 奈津子はニッコリとほほえんだ。
「晩酌する奥さんもいるだろうけれど、たぶん飲みたいのに飲まない奥さんだっているだろうからさ。すごいなって思ってね」
「何の話かと思ったらそんなことですか。お酒ごときで大層ね」
「お酒ごときってことはないと思うけれど。我慢するのがってことだよ。君だって」
「やっぱりわたしのことですか」
「違う、違う、そうじゃなよ」
 慌てる義雄に奈津子は可笑しそうに笑った。
「主婦はね、家族のためだったら何でもできちゃうの」
 奈津子は視線をそらし、「だから、お酒ごときなわけです」と両手で持ったコップに視線を落とした。
「そうか、そうだよね、やはり君は大したものだ」
 義雄は感心した。
「やっぱりわたしのことじゃないですか」
 唇を少し窄めて、桃色に染めた顔を向けた。怒っているわけではなかった。頬杖を突いた奈津子の潤んだ瞳を見て顔が上気した。
 最近は夜の営みが終わった後もなかなか離れない。甘えられているようでこそばゆい思いだが、幸せな気分だ。
 その夜、奈津子が義雄のベッドに入ってきて、股間のそれをそっと握った。
「いいのかい」
 うわずった声で聞くと、奈津子は小さく頷いた。手はぎごちなく動いた。新婚の頃少しされたことがある程度で、セックスに奥手な二人にとっては、かなり恥ずかしい行為なのだが、今日の奈津子は自ら進んで触れてきた。それは手のひらの中にスッポリと収まっていた。


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