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アイツがあたしにくれた夏
【コメディ 恋愛小説】

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手放してしまったもの-9

「好きじゃねえなら、期待持たせんなよ」


そう言って、自嘲する彼に、また涙が目に溜まってくる。


「……す、駿河……」


「あー、バカだな俺。恋人ごっこではしゃいで調子乗って、あげくお前の初めてもらったって喜んでたけど、お前にとってはずっと捨てたかったものだったなんてな 」


駿河はドサッとベッドに倒れこむと、そのまま白い天井を眺めていた。


「ち、違……」


確かに、男に縁のない人生を送ってきて、未だ処女であるコンプレックスはあった。


でも、駿河に抱かれて女の悦びを知り、温もりや優しさに包まれることで、この身体を今まで守ってきて良かった、初めての相手が駿河で良かったと思えた、この気持ちは本物だ。


なんとかそれを伝えようと、何度も口を開きかけては声に詰まる。


――それを伝えたからって何になる?


里穂ちゃんのことを考えれば、駿河に期待持たせたって何も応えてあげられるわけじゃないんだから。


駿河のことがこんなに好きなのに。今まで自分の気持ちに鈍感でいたことが足枷となって、気持ちすら伝えられない状況に追い込んでしまうなんて。


あたしの葛藤はただただ静かな部屋で大きく膨らんで行くだけ。


朝日の眩しさは益々力を増してきて、さっきよりも明るくなった部屋。コチコチと目覚まし時計の秒針だけがやけに響く。


駿河もそれを数えていたのだろうか、あたしが秒針のリズムを意識してから数えて、ちょうど10カウント目で、彼が口を開いた。


まるで風船のように膨らんでいくあたしの葛藤を、駿河が針で破るように、口を開いた。


「もういいよ、俺、お前のこと諦めるから。どうせ恋人ごっこも終了だし、今からはただのバイト仲間に戻るから、安心してくれ、“古川”」


駿河の言葉が、あたしの胸に突き刺さる。


――フルカワ。


その一言が、あたしの後悔をより一層色濃いものにさせた。





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