手放してしまったもの-7
「確かに恋人ごっこを提案したのは俺だよ。でも、さすがにセックスって、本気じゃねえとできないもんじゃねえの? 少なくとも俺は、お前と気持ちが通じ合えたから、ああなったと思ってたんけど、お前は違ったの……?」
鋭い視線の中で、弱々しくなっていく声。駿河の瞳は、ひどく悲しそうに見えて、あたしまで目の奥が痛くなってくる。
でも、あたしにはこうすることしかできないの。
ごめんね、“翔平”。
あたしは心の中でそう呟いてから、あっけらかんと笑って見せた。
「え、だって恋人ごっこって言ったじゃん。違ったも何も、あたしは最初からそのつもりだったんだって。それにホラ、二十歳にもなって処女って結構コンプレックスだったから、ちょうどよかったし」
そこまで言ったら、駿河の目がギロリとあたしを睨み付けた。
そのあまりの鋭さに、ギクリと身体が強張る。
「……どういう意味だよ、それ」
「あ、あたし、一夏のアバンチュールってやつに憧れてたんだ。夏のうちに一皮剥けて女になりたかったの」
声が震える。でも、もう少しだから頑張れ、あたし。
「だから、初体験は後腐れない形で済ますことができてよかった! 恋人ごっこを提案してくれた駿河に感謝だね」
シシシとえくぼを作って笑うけど、耳の下辺りがひどくズキズキ痛む。
泣いちゃダメだ。駿河が初めてを奪ったって罪悪感を持たないように。
あとは、これからも今まで通りただのバイト仲間としてよろしく、と軽い感じで言えばオッケーなんだから。
これで、恋人ごっこを始める前に戻れる、そう思って口を開こうとした瞬間、激しい痛みがあたしの左頬を襲った。