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『嘘』
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『嘘』-1

シュボッ、
「フーッ」
4月。まだ少し肌寒い土曜日の昼前、特にする事もなく公園のベンチで煙草を吸う。俺、今井茂樹。
周りでは子供達が遊んでいる。ぼぅ〜っとその様子を眺めていると…
「すいませ〜ん」
ん?お!可愛い娘だな。
「何ですか?」
「あなたの望みを叶えます♪」
ニコッ。
…ニコッて…。新手の宗教か?
「何言ってんの?」
「あ、私、天使なんですよ。見習いなんですけど」
天使って…イタイなぁ。可愛いのに。残念な事だ。
「で、望みはどんな事でも叶えてくれるの?」
ちょっとからかってやる、そんな軽い気持ちだった。「はい。一つに限りますが何でも良いですよ。但し、人の生死は叶えられません。見習いなんで大きなチカラは使えませんので」
一つかぁ。どうしよかな?…って違う違う!思わず望みを考えちゃったぜ。
「じゃあ望みの前に天使の証明を見せてよ」
さて、どうでるかな?
「はい。ここに免許証が…って、あれ?」
ポケットやらを慌てながらゴソゴソ。やがてカクッと首がうなだれ
「忘れちゃった〜」
目に涙を溜めて。泣くかな?と、その瞬間
「あ!そうだ。簡単な奇跡を見せたら証明になります?」
奇跡?なんだろ。
「まぁ、証明になるかも」「じゃあ、あの草を見てて下さいね」
そういって彼女は枯れかけた草を指差す。そして両手を握り目を綴じて聞いた事のない言葉を呟く。
すると、枯れかけていた草がみるみる元気になっていく。
マジか!?驚きの隠せない俺は目をいっぱいに見開いて彼女に向いた。
彼女はニコッと微笑みながら
「これで証明になりましたか?」
コクンコクン、俺はただ頷く事しか出来なかった。
「クスッ。では、望みを言って下さい」
望みか。どうしよ。う〜ん。急には思い浮かばないなあ…
「ごめん、急に望みって思い浮かばないよ」
「そうですか。」
彼女はしょんぼりする。
その姿に軽い罪悪感を感じる。
「じゃあ思いつくまで一緒にいない?早く考えるからさ」
慌てて言ってみた。ただ俺が一緒にいたかったのかも知れない。でも彼女は微笑んでくれた。
 それから二人で歩きながら会話をした。彼女の名前は咲耶。一人前の天使になる為の最終試験として地上に降りて一人の望みを叶える事。望みを叶えられた人間が本当に満足したら合格となる事など。それから俺の事も話して。
「じゃあ、本当に望む事をお願いしなくちゃダメなんだなあ」
「そうですね。でも深刻に考えないで下さいね。」
俺の手を握りながら微笑んでくれる咲耶を見ると
(ずっと一緒にいたい…)
そんな事を考えてしまう。彼女は人間じゃない…そう、そんな望みは叶わない事なのに…
「茂樹さん、どうしました?」
心配そうに咲耶が俺の顔を覗きこむ。俺はかなり情けない表情になっていたみたいだ。慌てて
「何でもないんだ」
と無理に笑顔を作った。
そして咲耶から視線を逸らすように横を向いた時、ボールを追い掛けて車道に飛び出す男の子、それに向かって走ってくる乗用車が目に入った。
「危ない!」
叫びながら男の子に向かい俺は走りだす。その男の子を歩道に突き飛ばした後、俺の身体が飛んだ…。
 景色がゆっくり見えた。咲耶を見る。泣きながら何か叫んでるけど音は何も聞こえない。
(泣くなよ。)


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