デアイトサイカイ-5
「ああ、気難しい子なので近づかない方が……」
男性はテオに注意しようと声をかけたが、テオは大丈夫大丈夫と無造作に羽馬の首筋を撫でた。
「お疲れさん。ちょっと足見せてくれるか?」
テオの愛撫にとろけた羽馬は巨体を預けるようにして片足を上げる。
「ありがとな。立派な足だなぁ正に砂漠用って感じだ」
上げた足を抱えるようにしたテオは、足の仕組みを見ながら太股辺りを強めにマッサージしてやる。
「クルルルル」
甘えて喉を鳴らす羽馬に、パルは苦笑し男性は呆然と立ちすくんだ。
「君は猛獣使いかい?」
主である男性も甘えて喉を鳴らす羽馬を見るのは初めてだったらしい。
「あ?別に?」
テオは羽馬の足を降ろすと、ぐりぐりっと乱暴に顎の脇を掻いてやる。
羽馬は目を閉じてもっと下、と言うように顎を突き出した。
そんな羽馬とテオを見ていた男性は、何だか既視感に襲われ、右手を顎に当てて自分の記憶を探る。
「……猛獣使い……あれ?ねえ、君……」
男性は思いついたように自分のつけていたゴーグルを外した。
色硝子を嵌め込んだゴーグルは、太陽光線からと砂から目を守る為の砂漠の旅の必需品。
勿論、テオ達も持っている。
「ああ、やっぱりだ。凄い偶然じゃないか。テオドア」
「へ?」
いきなり名前を呼ばれたテオはギョッとして男性に振り向く。
「私だよ私。ランスだ」
ランスと名乗った男性はフードを後ろに跳ね除けてニッコリ笑った。
そこに現れたのは艶やかな長い黒髪と深いグリーンアイ……それを見たテオは全身に鳥肌が立つのを感じた。
「なっ?!ラッ?!うえぇっ?!」
驚きの余り言葉にならない声を上げるテオを、ランスはぎゅうっとハグする。
「ははは、ゴーグルで色が分からなかったよ。赤目の猛獣使いなんて君しか居ないねえ〜」
驚き慌てるテオとは対称的に、のほほ〜んと話すランスにパルは首を傾げて問いかけた。
「知り合い?」
耳に届いた可憐な声に、ランスは電光石火の速さでパルの前に片膝をつく。
「初めましてお嬢さん。私はランス。テオドアとは……まあ、古い幼馴みと言った感じですかね。以後お見知りおきを」
そう答えたランスはパルの手を取ってその甲にうやうやしく唇を落とした。