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アイツがあたしにくれた夏
【コメディ 恋愛小説】

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恋人ごっこ-3

「顔、真っ赤」


繋がれた手を凝視したまま固まっているあたしに、駿河がまたまた小さく笑いを漏らす。


でも、その表情はさっきのバカにしたみたいな笑みとは明らかに違っていて、目を細めて……それこそ、あのイケメンバカップル彼氏がほんわか彼女を見つめるような、優しい笑顔だった。


そんな奴の思いがけない表情に、不覚にもまたまた胸がドキッと高鳴ってしまった。


「オトコ欲しいってしょっちゅう意気込んでるくせに、手ェ繋がれただけでこんなガチガチになるなんて、実際彼氏ができた時どうすんの?」


「う、うるさい……」


まともに反論できないのは、まさに駿河の言う通りだから。


弱い立場のあたしは、駿河から目を反らすことしかできない。


そんなあたしに彼は、


「免疫力、つけてみるか?」


と、提案してきた。









免疫力……?


何のこっちゃわからないあたしに、駿河は小さく笑ってから口を開く。


「そんな調子じゃ、憧れの花火大会デートだって失敗しちまうぞ? 来年に向けて練習してみればいいんじゃね? ま、花火大会は終わっちまったけど、これから花火買ってデートの真似事ならできるぜ」


「え……?」


「お前、さっき言ってたじゃん。俺がどんな付き合い方するのか疑問に思ったって」


「確かにそう言ったけど……」


「実は俺もお前がオトコ出来たらどんな風に付き合うのか、興味あるんだ。だから、これから花火デートしてみよう?」


「…………!!」


無邪気に白い歯を見せて笑う駿河とは対照的に、真っ赤な顔で言葉を飲み込むだけのあたし。


「な、ダメ? そんな身構えなくてもバイトの打ち上げくらいに考えてくれればいいからさ」


「え、あ、あの……」


単に今日バイトに出たお礼として提案されているだけなのに、駿河の少しはにかんだ笑顔にドキドキが止まんない。


だって、里穂ちゃんの打ち上げのお誘いは断ったくせに、どういうつもりなの……?


コイツに振り回されっぱなしのあたしは、今までの奴の姿がグルグル頭の中で駆け巡る。


目が合うたびに「バカ」とか「ブス」とか口パクしてはあたしを怒らせたり、ダスターを顔面に投げつけてきたり、トレイで頭を叩いたり。


正直、駿河のこと、ずっとずっと最悪な奴って思ってた。


でも、椅子から落ちそうになったあたしをしっかり抱き留めてくれた、意外とガッシリした腕が。酔っ払いからかばってくれた大きな背中が。そして今もしっかりとあたしの手を掴んで離さない温かい手が。


最悪なはずの駿河がどんどんあたしの胸を苦しくさせていく。






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