恋人ごっこ-2
なのに、そんなセリフを吐いた張本人は、茹でダコ状態のあたしを見るとプッと噴き出した。
「お前、こんなこと言われたくらいで真っ赤になっちゃって。マジで男に免疫ねえんだな」
ケラケラ笑いだした駿河を見て、自分が担がれていたことに気付く。
すると、怒りはみるみるうちに沸点を超え、頭が噴火したかのように怒りのマグマが噴き出してきた。
終電から引き摺り下ろされ、挙句にバカにされ、黙っていられるほどお人好しじゃないっての!!
「あんた、やっていいことと悪いことがあるでしょうが!」
散々助けてもらった恩はあるけれど、ここは一発ぶん殴ってやんなきゃ気が済まない。
怒り心頭のあたしは、渾身のパンチを駿河にお見舞いしてやろうと、あしたのジョーを思い浮かべながら駿河の肩めがけて拳を突き出してやる。
でも、あたしの会心の一撃は、駿河の右手に簡単に受け止められてしまった。
「お前のパンチなんざ利かねえよ」
そう小馬鹿にした駿河は、そのまま手をゆっくり下ろすと指を絡ませてきた。
極限まで見開かれた目と口。その視線の先は所謂恋人繋ぎをしたあたしと駿河の手だった。
こっ、こっ、これは……!!
ふと脳内によみがえる、バイト中に現れたイケメンとほんわか彼女のやり取り。
あの客もバカップルだったけど、内心羨ましく思ったのは事実。
そんな展開がまさか自分の身に起ころうとは……!
さっきの怒りはどこへやら、あたしの心臓はいつの間にかせわしなく脈を打ち始めていた。