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アイツがあたしにくれた夏
【コメディ 恋愛小説】

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恋人ごっこ-12

駿河が抱き締める腕の力はとても強くて痛いほど。


それは駿河の想いの強さなのか、なぜか目の奥がチリリと痛んだ。


「だ、だめだよ駿河……」


そう言って彼の腕から逃れようとしても、駿河はあたしを離してくれそうにない。


かく言うあたしも、だめだと言っておきながら、抱き締められる感触が心地よくて背中に腕をまわす始末。


頭より先に反応してしまった身体は、駿河の温もりに包まれながらじんわりと幸せを噛み締めていた。




「だめって言ってるくせに、やってることが正反対なんだけど、なんで?」


耳元で囁く、駿河のちょっぴり意地悪な言葉。


そんなの、あたしにもわかんないよ。身体が離れたくないって言ってる、それだけなんだから。


でも、それを口に出せるほど素直になれないあたしは、彼に顔を見られないように、「うるさい」とだけ吐き捨てて駿河の胸に顔を埋めた。


すると、ふわりと頭を撫でられる感触が。


そしてあたしの髪を撫でていた手は、するんとあたしの左頬に滑り落ちてきた。


その滑らかな動きとほんのり指先に残る火薬の匂いに、ゾクリと背中が粟立つ。


辛うじて目線だけを彼に向けると、口元を微かに歪めて笑う顔。


意地悪く笑っているはずなのに、それはとても妖しく綺麗で、魅入られてしまったかのようにうっとり眺めてしまう。


「そんな顔して煽ってさ。……俺、もう抑えらんねえんですけど」


「え?」


「小夜……好きだ」


「ええっ!?」


ふと驚いて目を見開くと、駿河の少し傾けた顔が目の前にあって――、


「んっ……」


――街灯のささやかなスポットライトのもと、あたしは生まれて初めてのキスをされていた。






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