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アイツがあたしにくれた夏
【コメディ 恋愛小説】

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恋人ごっこ-10

気付けばどっさり買った花火も、あっという間に無くなってしまった。


腕時計を覗けば午前2時半。


いつものあたしなら、こんな時間まで起きてるなんて考えられないのに、目はドンドン冴えていく一方だ。


眠気よりも、駿河が横にいるドキドキの方が勝っているから、なのかな。


電車を降りてから、ずっと手を繋いでここまで歩いてきた道。


脚の長さがまるで違うのに、あたしの歩くスピードに合わせてくれた、さりげない優しさ。


途中寄ったコンビニで、花火を買う時もあたしのお金を一切受け取らずに素早く払った駿河は、申し訳なく思うあたしに「じゃあアイスおごって」なんて茶目っけたっぷりに笑ったっけ。


恋人ごっこを通して、今まで知らなかった駿河の姿を知るにつれ、自分がますます欲張りになっていくのがわかる。


始発までの約束だった恋人ごっこ。


ずっと続けていきたい。いや、ごっこなんかじゃなくて……。







「……小夜?」


名前を呼ばれ、ハッと顔を上げると駿河のキョトンとした顔があたしを見下ろしていた。


「あ、ご、ごめん……ボケッとしてた」


「なんだ、眠くなったか」


「うん、まあそんなとこ」


「そうか。じゃあ、始発まで時間あるけど、花火を片したらタクシー拾うか」


駿河はそう言って、遊び終えた花火を次々とレジ袋に入れて片付け始めた。


無理させないように、あたしを気遣ってくれた言葉だってのは十分わかってる。


でも、その物分かりのよさがかえってあたしを苛立たせていた。


タクシーであたしを帰すってことは、それだけ恋人ごっこが早く終わってしまうということ。


せめてこの短い時間。一分でも一秒でももっと一緒にいたいと思ってくれないの?


そこまで考えて自虐的に笑う。


駿河を拒んだのはあたしじゃないか。里穂ちゃんを応援するからって、駿河を傷つけて、それでもまだ彼に何かを求めるなんて、あたしも性格悪いなあ。


花火の時にこっそり流した涙がまた溢れそうになって、あたしは慌てて駿河に背を向けた。



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