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アイツがあたしにくれた夏
【コメディ 恋愛小説】

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恋人ごっこ-1

最終電車が行ってしまった駅のホームは、耳が痛くなるほどの静寂に包まれていた。


都会と言えども日付をまたぐこの時間帯は、車がアスファルトの上を滑る音ぐらいしか聞こえてこない。


そんな静けさの中で我に返ったのは、


「あー、終電行っちゃったなあ」


なんて、既に見えなくなった最終電車の方向を見やりながら駿河が呑気な声を出したからだった。


何コイツ……!! 元はと言えばあんたのせいで……!


途端にカッと頭に血が上ってしまい、あたしは掴まれていた手をバッと振り払ってから、思いっきり駿河を睨みつけた。


「何言ってんの! アンタがあたしを引き摺り下ろしたからでしょうが!」


そう声を荒げても、どこ吹く風の駿河は悪びれることなくニヤニヤ笑うだけ。


そんなふざけた態度がますます鼻についたあたしは、ついにがなり声を上げてしまった。


「何ニヤニヤしてんのよ! どうしてくれんの、これじゃ帰れないじゃん!!!」


ここからあたしが利用している最寄り駅まで四駅ほど離れている。


こんな深夜にうら若き乙女が一人で歩いて帰るのなんて到底無理だし、タクシーだって普段利用しないあたしにとって、いくらかかるのか皆目見当がつかない。


勢い任せで怒ってみても、帰れなくなったこの状況には不安の方が勝ってしまい、怒りに反比例するように涙が込み上げてきた。


……なんであたしがこんな目に遭わなきゃいけないのよ。


俯いて泣きそうになるのを歯を食いしばりながらこらえていると、ポン、と頭に手が置かれる感触が。


ゆっくり顔を上げると、不敵な笑みを浮かべていたはずの駿河の表情は、いつの間にかシシシと白い歯を見せながらのイタズラっぽい笑みに変わっていた。


ポカンと呆気にとられて奴を見ていると、彼は無邪気な笑みのまま、


「帰したくなかったから」


と、サラリと言ってのけた。


な、何ですか、それは!!


頭からボンッと煙が噴き出すほどの衝撃的セリフ。


おそらく、「あたしが決して言われることのないセリフランキング」10位以内に入ってるであろうそのセリフを不意に言われたあたしは顔を真っ赤にして固まることしかできなかった。





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