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『ITUKI』
【純愛 恋愛小説】

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『ITUKI』-2

“大城君へ 
いつかまた貴方と会える日を待っています”

・・・僕はそれ以来彼女には会わなかった。

畠山の電話は一年間眠っていた彼女の姿形をすっかり思い出させてくれた。
「もしもし?大城くん、聞いてる?」
僕は病院の名前をもう一度確認すると、黙って電話を切った。



畠山に教えてもらった病院は僕がいた地元の街でも一際大きな建物で、僕も何度か通ったことがあった。
駅から下り、バスで二十分ほど揺られていると目的の場所が見えてくる。
窓の外に広がる景色は昔とちっとも変わっていなかった。
高校を卒業して以来だから、実に一年ぶりの帰郷だ。帰ろうと思えばすぐに来れる距離。だけど僕はずっとこの街を避けていた。


正面玄関から中に入り、入口の受け付けで彼女の病室が四階にあることがわかった。
半ば急ぎ足で階段を上がる。彼女が事故にあったのは、三日前。詳しいことは知らないが、深刻な状態にあることは電話の向こうからでも充分に伝わってきた。考えたくはないが――最悪の状況になる前にもう一度彼女の顔が見たかった・・・。
気が付くと彼女の病室はもう目の前だった。
足が震えた。心臓が大きな音を立てて脈打つ。
軽く深呼吸してからノックをすると、女の人の声でどうぞ、と聞こえてきた。
勇んでドアを開けると、部屋には看護婦の他に数人の来客がいた。
その人たちはぼんやりと立ち尽くす僕を見て互いに顔を見合わせた。
するとその内の一人が立ち上がり、こちらにゆっくりと近づいてきた。
「もしかして大城くん?」
尋ねてきた男性を見て、そこで僕は彼がかつての同級生であると気付いた。
名前は、何だっただろうか・・・?
「電話で、聞いたんだ。それで見舞いに・・・」
椅子に腰掛けていた女が怪訝な顔をした。
まさか僕が来るとは思っていなかったのだろう。彼女の疑問はもっともだった。「と、とりあえず座れよ」男がどこからか椅子を持ってきて、僕を促すようにベッドの傍へと座らせた。

そこに、彼女はいた。
複雑な機器に絡まれて、口に呼吸器を被せた状態で眠り続けている。
二条伊月の変わり果てた姿を見つめて、僕はしばらく何も言えなかった。


「あの、すいません。そろそろ・・・」
時計をちらちらと気にしながら看護婦は言った。
「面会時間は限られてるんです。なにしろ、まだ安静なもので」
神経質そうな看護婦が急かすような目つきで、近くの男を見た。
僕以外のクラスメイト達は一斉に立ち上がると、ぞろぞろと部屋から出ていった。先程、声を掛けてきた男は、その場を動こうとしなかった僕の腕を引っ張りながら病室の外に連れ出した。
「参ったね。追い出されちまった」
手を離すと男がそう言った。
「大城くん、大丈夫かい?」
男が心配そうにこちらに向いた。多分僕はいま、自分でも情けないくらいに不安な顔をしているに違いない。頷くこともできなかった――二条さんは、一体どうなってしまうのだろうか・・・?
「すいません。二条さんの怪我の具合を詳しく教えてくれませんか?」
僕は突っ掛かるように聞いた。男は細い眉をぴくっとしならせると慌てて口を開いた。
「おいおい、同級生なんだから敬語はやめてくれよ。」


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