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『ITUKI』
【純愛 恋愛小説】

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『ITUKI』-13

最初、僕はいつきに同情しているのではないかと思った。
記憶をなくした二条伊月が行く当てもなく困り果てているのなら、何とか助けてあげたいと高校時代の僕が僕に告げていたのだ。
素直に部屋を貸したのも、ただ単に二条さんの影を彼女に追っていたのかもしれない。
だが、いつきは伊月ではなかった。
いつきと過ごす時間が、いつしか僕のなかで大きな意味を持つようになっていった。

遅すぎたのかもしれない。気付いたときには、すでに電話の音は鳴っていた。


「もしもし、俺だ。聞こえるか」
携帯の向こうから畠山の甲高い声が聞こえた。
ひどく興奮している様子で彼は言った。
「喜べ。最高のニュースだ。たった今、病院から連絡があってな。
今朝、二条の意識が戻ったらしい。急にだ。まだ少し昏睡状態が続いてるみたいだけど、もう大丈夫だ。 ・・・おい、聞いてんのか?」
畠山は一気にまくしたてると、息を整えるように吐いた。
僕は、言葉が出なかった。二条伊月の意識が戻ることの意味を考えて、全身に悪寒が走った。
「どうしたんだ。嬉しくないのか?」
僕の反応が不満だったのか、畠山の口調が変わった。「いや、そんなことないけど。ちょっとびっくりして・・・」
「そうか、そうだよな。
俺、今から病院行くけどお前どうする?一緒にくるか」
「すぐには無理だけど、必ず行くよ」
僕は瞬時にそう答えていた。
電話を切ると、出掛ける準備をした。いてもたってもいられなかった。
いつきは今朝、出ていったきりだ。どこにいるのか分からない。
僕は不安を抑え切れないまま家のドアを飛び出した。

夕暮れ時、目の覚めるように赤く染まった教室で、いつきは一人立っていた。
何故、彼女の居場所が分かったのか。僕だってすぐに突き止めたわけではない。あちこち捜し回って最後の最後の心当たりで、この場所に行き着いたのだ。
いつきは僕の高校にいた。彼女に学校の住所を教えたことはない。なぜここに来たのか僕には不思議でならなかった。
教室のドアを開けても、いつきは窓の前に立って背を向けていた。
「素敵な景色ね。街が見渡せるわ」
いつきが振り返らずに言った。
「宏和の部屋とは大違い、って感じ。
あのアパート近くにマンション建ってるから日当たり悪いし、風通し緩いし、古家でボロいからもう最悪よね」
「ずっと、ここにいたのか?」
僕はいつきに近づいた。夕日に透けるような彼女の髪を見て、少し戸惑った。
「最後に見ておきたかったの。私達がどんな高校に通ってたか」
いつきは窓の淵に手をついて言った。遠くを見るような目が、全てを意味していた。
「ねえ、私の席ってどこ?」
ひらりと僕のほうに向いていつきが聞いた。さっきまでの寂しげな雰囲気は消えていた。
僕が指を差した席に彼女は座った。
「じゃあ宏和も座って」
僕は教室の隅にあったかつての自分の机を見た。
二条さんの机とは大分遠くて、僕達が隣の席になることは一度もなかった。
言われたとおりに椅子を引こうとしたらいつきが慌てて止めた。
「ちがう、ちがう。そこじゃないって」
「え?」
いつきが示した場所は、彼女の隣だった。
「ここ俺の席じゃないんだけど・・・」
「いいから座ってよ、早く」
いつきに急かされて仕方なく僕は隣に腰を下ろした。机同士がピッタリと重なっていてなんだか恥ずかしくなってしまった。


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