ムカシムカシ-5
『分かってる?アタシ魔物だよ?』
喋る翼の生えた大きな蜥蜴など魔物以外にあり得ませんが、蜥蜴は思わず確認してしまいます。
「うん……でも怖くない……」
自分でも不思議でしたが、本当に怖くなかったのです。
『アハハっ変な子』
「良く言われる」
薬剤師は憮然として答えます……本当に良く言われるのです。
「ねえ……嘘つきって?」
『え?ああ……屋敷の人とね、約束したの。言う事聞いたらここから出してくれるって。でも、出してくれないから怒っただけ。ごめんね?人違いして』
「酷いね……私から言うよ……」
薬剤師の言葉に魔物は小さく首を振ります。
『止めときなよ。ただ働いてるだけなんでしょ?屋敷に魔物飼ってる事知ったなんて分かったら殺されちゃうよ?』
魔物の存在は屋敷の重大な秘密です。
知っているのは旦那様や奥様……後は執事長やメイド長だけです。
「でも……」
『いいよいいよ。この中って時間が止まってるから年とらないしね』
随分長い事この中に居るが不便な事はない、ただ退屈なだけ、と魔物は話しました。
『だから、暇な時来てくれる?それで充分』
どうせまた忘れてしまうだろうと思いましたが、こっちが何かしたワケではないので忘れられても別に構いませんでした。
「……分かった……約束」
薬剤師は柵の中に入れた手の小指を立てます。
『何?』
「指切り……約束の証……」
薬剤師は魔物の大きな腕を叩いて手を上げさせました。
そして、大きな小指に小さな小指を絡めてふんわり微笑みます。
「約束……必ず来る」
魔物は自分の小指に絡んだ小さな小指を見て不思議な気持ちになりました。
『うん。待ってるね』
蜥蜴の姿では難しかったですが、精一杯笑って見せます。
「私はリュディヴィーヌ……リュディでいい……」
『アタシはパルティオ。パルって呼んで♪』
この日から、人間と魔物の不思議な友情が始まりました。
薬剤師リュディは約束通り、魔物パルの元を訪れました。
毎日というワケにはいきませんでしたが、出来るだけ時間を作りました。
リュディはパルの元に訪れる時、必ず手土産を持って行きます。
自分が読んで面白かった本、綺麗な音を奏でるギターに、手鏡や櫛など……パルが何に興味を持つか分からなかったので、いろんな物を持っていきました。