ムカシムカシ-4
結果、18歳の若さで薬剤師の免許を取る事が出来たのです。
若くして薬剤師の免許を取った美しい娘の噂は広がり、例のお屋敷にも届きました。
旦那様には直ぐ分かりました。
若い薬剤師が、あの時の忌み子だと。
今まで我が子である筈なのに何もしてやれなかった後悔から、旦那様は薬剤師をお屋敷で雇う事にしました。
薬剤師はこれを快く受け入れます。
そう、薬剤師は父親と同じ時間を過ごしてみたかったのです。
お互い知らないふりをしなければいけないので、親子のスキンシップは出来ませんがそれでも構いませんでした。
そうして薬剤師はお屋敷で働く事になりました。
そんなある日の事、お屋敷の書庫で調べものをしていた薬剤師は何かにつまづきました。
床を見てみると、ほんの少し板が浮いている箇所があります。
それに指を引っ掛けて持ち上げてみると、意外と簡単に床板が外れました。
外れた床板の下には階段があります。
薬剤師はランプを手に持って、導かれるように階段を降りていきました。
カビ臭くて長い長い階段を降りきると、大きな牢がありました。
「……?」
薬剤師は首を傾げて柵に手を触れます。
ガガンッ
いきなり柵に何かが辺り、大きな音が響きました。
驚いた薬剤師は手を引っ込めて数歩後退ります。
『来ないで!!アンタ達なんか大っ嫌い!!』
牢の中から聞こえた声は綺麗な声でした。
「……誰?」
恐る恐る出した薬剤師の声も、負けず劣らず綺麗です。
『嘘つきっ!出してくれるって……自由にしてくれるって言ったじゃないっ!』
牢の中から聞こえる声は怒っているというよりは、泣いているようでした。
「……話が……見えない……聞かせて」
薬剤師が再び柵に近づくと、声の主が牢の奥から姿を現します。
大きな翼の生えた黒い蜥蜴は、牙を剥き出していました。
『屋敷の人じゃないの?』
「働いてるだけ……偶然見つけたから……来てみた」
大きな蜥蜴は薬剤師の前に来て、大きな目で顔を覗き込んできました。
『アタシが怖くないの?』
「少し驚いたけど……怖くない……だって……泣いてる」
薬剤師は柵の間から手を入れて蜥蜴の鼻を撫でます。
その無防備さに蜥蜴はびっくりしてしまいました。