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アイツがあたしにくれた夏
【コメディ 恋愛小説】

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最終電車-9

咄嗟に反応できなかったのは、自分の胸の内を見透かされていたからだろうか。


いや、違うって! 普段あんだけ憎たらしい駿河に惚れるわけがない!!


「バ、バカ! 誰があんたなんか!」


「でも、顔赤いぜ?」


あたしの顔を覗き込んではニヤニヤ笑う駿河。


自分だって赤いくせに!


どこまでも茶化した口調が悔しくて、


「それは、あんたがあの時あたしのことを咄嗟に彼女だなんて嘘吐くから、ちょっと意識しちゃっただけよ!」


と、ついつい声を張り上げてしまった。


すると、彼は目を丸くしたまま硬直。


あれ、変なこと言った……?


あたしが言った言葉に固まる駿河に、また地雷を踏んでしまったかと背筋が凍る。


でも、駿河は舌打ちをするわけでもなくそのまま下を向いて黙り込んでしまった。






二人の間に流れる沈黙。ガタンガタンと電車の走る音と、あちこちで聞こえる乗客のくぐもった声だけがいつもと変わらず聞こえてくる。


それなのにあたしと駿河はいつもと明らかに違う気まずい雰囲気に陥ってしまった。


なんでこうなったかわからないから、余計何も言えない。


あたし達は、黙って窓の外の黒い景色を眺めることしかできなかった。


ガタン……ガタン……、次第に減速していく電車。流れる景色もスローモーションのようになっていく。


もうすぐ駿河が降りる駅。


駅のホームに入った所で、ようやく奴が口を開く。


ヘンに身構えたあたしは緊張した面持ちで、駿河の形のいい唇を見つめていた……ら。


「……意識ってどんなこと考えてた?」


ずいっと詰め寄られて駿河に顔を覗き込まれる。


その整った顔が間近にあるだけであたしの頭はパニックになる。


近い、近いってば!


「いや、だから意識とかそんな意味じゃない! ほら、アンタは普段あたしに意地悪ばかりだし、付き合ったら優しい所あるんだろうかとか、興味あっただけだよ!」


そこまで言ってあたしは俯きながら太ももの辺りに力を入れた。


電車が止まる瞬間って、結構グラつくから条件反射で踏ん張ってしまうのだ。


だからこのままこの話は強制終了させて、バランスをとるのに集中するに限る。


プシューという音とともに開くドア。


ワラワラと降りる乗客の邪魔にならないようにドアの脇に避けつつ、ようやくこの変な雰囲気から逃れられると、あたしは密かに胸を撫で下ろした。



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