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アイツがあたしにくれた夏
【コメディ 恋愛小説】

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最終電車-8

「敵は手強いな」


駿河の独り言にゆっくり後ろを振り返ると、片眉を上げて呆れたように笑う顔がそこにあった。


あたしをまっすぐ見つめて笑うその表情に、安堵で涙が溢れてきそうになる。


駿河の表情一つで、悲しくなったり安心したりドキドキしたり。なんであたしはいちいち反応しちゃうんだろう。


それでも漸く見せてくれた笑顔に嬉しくなったあたしは、おずおずと身体を駿河の方に向けた。


向かい合うと気まずさなのか、気恥ずかしさなのか、微妙な雰囲気。


そんな空気の中で、奴は少し顔を赤らめて、頬を人差し指でポリポリ掻きながら、小さく頭を下げた。


「悪い、イヤな気分にさせちまったな」


「ううん、気にしてないよ」


「無理にバイト出てもらったのに、八つ当たりはねえよな。ただでさえ、今日のバイトでお前に嫌な思いさせてしまったってのに」


どうやら駿河は、あたしが酔っ払いに絡まれたことを責めているらしい。


自分がフロアを担当していれば、自分がシフトに入るよう頼まなければ……。なんとなく、駿河がそんなことを考えているような気がした。


だからあたしは、ニッと笑って彼の背中をバチンと叩く。


突然の暴挙に、駿河はじめギョッとした顔の乗客の視線が集まる中で、あたしはゆっくり口を開いた。


「なーに言ってんの! アンタがあたしを助けに来てくれたときはホントに涙出るくらい嬉しかったんだよ。責めるなんてらしくない真似やめなよ」


あの時の駿河の横顔や、あたしを手を掴んで自分の背後に隠してくれた、あの手の力強さ。


生まれてこの方女の子扱いなんてまるでされたことのないあたしにとって、さっきの出来事はくすぐったくて、それでいてなんだかとても胸が締め付けられてしまうものだった。


「マジ?」


「うん、あの時の駿河、めっちゃかっこよかったよ」


「……惚れたか?」


照れ隠しなのか、真っ赤な顔した駿河はわざとおちゃらけた口調であたしの顔を覗き込んできた。


途端にあたしの体温が瞬時にボッと高くなったような気がして、またまた身体が強張ってしまった。





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