最終電車-6
◇
ひしめき合う……とまではいかないけど、人口密度が結構高めの電車の中。
あたしはドアのすぐ横の手すりに掴まりながら、窓の向こうで流れる景色をぼんやり眺めていた。
……駿河、なんで里穂ちゃんのお誘いを断ったのかな。
窓から少し顔を離すと、自分の顔が鏡のように映った。
ほんの少し視線をずらすと、駿河が吊革に掴まっている姿が見える。
まっすぐ前を見つめるその表情に、疲れなんて見受けられない。
ただ、どことなく浮かないような、考え事をしているような、そんな気がした。
やがて、ガラス越しの駿河とバチッと目が合ってしまった。
「……何だよ」
「う、ううん……別に……」
いつもなら、もっと他愛のない話で笑ったり喧嘩したりできるのに、今日のあたし達はなぜかぎこちない。
あー、こういう沈黙ってめちゃくちゃ気まずいなあ。
ついにこの気まずい空気に耐えきれなくなったあたしは、自分の両頬をペチペチ叩いて気合いを入れてから、左肩の向こうの彼に話しかけた。
「ねえ、なんで里穂ちゃんのお誘いを断ったの?」
あたしの問いに、駿河はチラリとこちらを見てから口を開く。
「疲れたからだって言っただろ」
それだけ言うと、奴はプイッとまた顔を背けて窓の向こうを見つめたまま黙り込んでしまった。
……な、なんか、機嫌悪くない?
仕事のことで駿河に怒られるなんてしょっちゅうある。
でも、仕事のことで怒る駿河はどことなく茶化すようなからかうような調子だったから、結果あたしもじゃれ合うような形で言い合いに発展させていた。
ところが今の駿河ときたら、だんまりを決め込んで超絶不機嫌オーラを出しまくってる。
自称平和主義者のあたしにはこの状態はかなりキツい。
……よし、冗談でも言って駿河を和ませなければ。
あたしは何度か咳払いをして喉の調子を整えてから、駿河に向かってニッと笑った。
「勿体なーい! せっかくあの里穂ちゃんとデートできるチャンスだったのに、あんたってバカだねえ。疲れたとか言わないで、ここは無理してでも一緒に飲みに行くべきだったのに」
すると、奴はゆっくりあたしの方を再び向き直った。