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アイツがあたしにくれた夏
【コメディ 恋愛小説】

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最終電車-10

そして、この駅で降りる人を大体確認した所で、駿河を見上げた。


「ほ、ほら、着いたよ」


「あ、ああ……」


あたしに促されるままに、ホームに降り立つ駿河を見守りながら、なんとか引きつった笑みを彼に向けた。


やっぱりあたし達にこういう雰囲気は似合わない。


お互い喧嘩するくらいでちょうどいいのに、なんだか今日の駿河には変な気持ちにさせられてばっかり。


助けてくれたことがあったから、ちょっと錯覚を起こしただけなんだろう。


明日からはいつものあたし達に戻れるはず。


自分にそう言い聞かせ、自己完結したあたしは、いつも通りの挨拶をするつもりで再び駿河に視線を向けた。


すると。


駿河は何かを思いつめたような真剣な表情をまっすぐあたしに向けていた。


その視線に射抜かれたように、ゾクッと背中が総毛立つ。


な、何なの……?


駿河はさっさと歩き出すわけでもなく、黙ってあたしをホームから見ているだけ。


発車ベルが鳴るまでの時間がやけに長く感じた。


やがて、その気まずい雰囲気に耐えきれなくなったのはあたしの方。


だからあたしはできるだけ普段通りを装って、


「駿河ー、お見送りなんてしてくれなくていいよ」


と、カラカラ笑って見せた。


なのに、駿河はやっぱりその場から動こうとしない。


やっぱり、ヘン。


いつもならぶっきらぼうに片手だけ上げて、さっさと改札口に向かって歩き始めるのに。


イレギュラーな駿河の様子にあたしの胸の鼓動もますますスピードアップしていくばかり。


あー、もう! めっちゃ気まずいじゃん!



そんな折、ようやく待ちに待った発車ベルが寝静まりかけた駅のホームに鳴り響いた。


その瞬間、金縛りが解けたみたいに駿河の表情がフッと緩んだ。


ああ、助かった。


今度こそこの気まずい空気から抜け出せると、あたしもつられたように全身の力が抜けた、その時。


あたしはなぜかバランスを崩して前のめりになってしまっていた。




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