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アイツがあたしにくれた夏
【コメディ 恋愛小説】

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最終電車-1

「お疲れさまでしたー」


シャッターが閉まった店の前で挨拶するあたし達。入学祝いで親から買ってもらった腕時計に目を移すと、もうすぐ日付が変わる頃だった。


「それじゃあ、皆さん今日はありがとう。ホントなら打ち上げとかやってあげたいけれど、それは日を改めるとして、今日はこれで勘弁してね」


店長がそう言ってコンビニの袋から缶ビールを取り出すと、あたし達に一本ずつくれた。


「わあ、ありがとうございます」


里穂ちゃんが目をキラキラさせながら店長に頭を下げると、彼は少しきまりが悪そうに苦笑いを浮かべながら、


「実は、カミさんから持たされたんだ、コレ。『花火大会の日なんてバイトしたいわけがないのに無理して出てくれたんだから、お礼くらいしなさい』って言われちゃった」


と、頭を掻いた。


「素敵な奥様ですね」


あたしがそう言うと、店長はへへッと鼻の下を擦りながら


「ホント、頭が上がらないんだ。アイツだって花火大会に行きたいのを我慢してくれたしな」


と、ニコニコ笑う。


すると、店長の横に立っていた駿河が、なぜか少し気まずそうに俯いていた。


でも、そんな奴の表情に気付いているのはどうやらあたしだけっぽい。


里穂ちゃんも店長の話にニコニコしながら相槌を打っているし。


「だから、悪いけど明日と明後日はちょっと休ませてもらって、カミさん孝行してくるよ。……駿河くん、沼津と協力してくれな。何かあったらいつでも電話していいから」


「はい」


店長は駿河の肩をポンと叩いて肯いた。


定休日なんてものがないうちのカフェ。職業柄まとまった休みもなかなか取れないし、時間は不規則だったりで、奥さんにはずいぶん寂しい思いをさせているって、店長が以前ぼやいていた。


転職も考えたみたいだけど、その頃には既に奥さんのお腹の中には赤ちゃんがいたから、結局腰を据えて働くって決めた店長。


そして、店長と奥さんの愛情を一心に受けた赤ちゃんは、今もお腹の中でスクスク育っている。


予定日は12月半ばらしく、年末はさぞかし賑やかになっていることだろう。


赤ちゃんの誕生が楽しみなのはもちろんだけど、二人でイチャイチャできなくなるのはちょっぴり名残惜しいって店長がボソッと本音を漏らしてた。


だから、二人で過ごす最後の夏の思い出作りとして、明日から1泊2日の旅行にいくそうだ。


奥さんが身重ってこともあり、そんなに遠くない所での温泉旅行になってしまったらしいけど、奥さんはすごく喜んでくれたんだって。




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