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ニンゲンシッキャク
【二次創作 その他小説】

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ニンゲンシッキャク-19

 例えば、普段だってそう。
「あッ、亜由ちゃん。ね、ね、どこ行くの?」
「……トイレよ」
「じゃあじゃあ、一緒に行こう?」
「……ハァ?」
一緒にトイレに行ったと思えば、ドアの前で待っている。馬鹿じゃないの? ううん、あなたは馬鹿よ。おかしい。しかも。
「亜由ちゃん、一緒にトイレ行こう?」
「わたしは、いいわ」
「えー、だってこの前は一緒に行ったよ」
「それは、あなたが勝手について来ただけじゃない」
「でも……ッ」
本当に、面倒臭い。男に生まれたなら、どれだけ楽だった事か。

 おかしいと思うのは、感じるのはわたしだけですか?





「博愛につき汎愛します」
   フクザワ ユウト



 俺、世界がこよなく好きです。

 ジャラジャラと、後方で小銭が落ちる音がした。俺は学生カバンを小脇に抱え、屈んで小銭を拾っては老紳士に手渡す。細かい作業は得意なので、早く拾い集めることが出来た。
「大丈夫ですか?」
「ありがとう、学生さん」
「いいえ、当然のことですから」
俺は白いトレンチコートの老紳士に、最後に拾った五十円玉を渡した。上品で、静かな老紳士だった。優しい口調で、前進先生を思い出す。ロマンスグレーの髪、整えられた口髭、スマートな身のこなし。こんな祖父がいたら、自慢だろうなと思う。
「それでは」
改札のチェッカーに定期スイカを当て、通行する。

 俺は少し遠く、学外から通う生徒です。どうしても、この高校に通いたくて片道一時間電車に揺られて通学しています。朝も早く家を出ないといけないし、時間もかかるけど、こんな学生生活も悪くないと思っています。今だって単なる帰宅途中ですが、毎日は意外に楽しいです。時間も有意義に使えば、苦労はしません。

 電車に乗り込む。思わず、笑みが零れた。嬉しくないですか、お礼を言われると。挨拶と同じくらい、いえそれ以上に優しい気持ちになれる言葉だと思います。
「……俺こそ、ありがとう。老紳士……」
こんなに優しい気持ちになれたのは、貴方のお蔭です。



 そうして、暫くしてから俺は例の老紳士に偶然遇うことになる。
「いらっしゃいませー……あ、あなたは」
「おや君は、例の櫻川の学生さん。花屋で働いていたのか、うんイメージ通り。薔薇の花束を頂けるかな」
「は、はい、カラーは?」
「真っ青な薔薇、と言いたいところだが真っ赤な薔薇を頼むよ」
「はい、ありがとうございます」
俺は棘の処理された、オールド・ローズを手に取った。勿論、茎の処理もしてある。
「儂の孫は教師をやっているのだよ」
前進先生……、まさか。
「前川進と言ってな、優しい子だ。知っているかな」
「ええ、実は担任の先生なんです」
少しでも、僅かでも綺麗に見える様に整える。
「そうかそうか、進は恵まれているな。こんなに良い生徒さんがいるのだからな」
「いいえ、恵まれているのはきっとぼく達ですよ」
「ありがとう」
この老紳士の『ありがとう』は深い。年代の重みなのだろうか、広く深く心に入る『ありがとう』だった。


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