ミドリノヒミツ-16
「……テ……オ……」
テオに目を向けたリュディはふっと気を失って倒れた。
同時にテオも蔦から解放され、床に落とされる。
「がはっ げっ ごほっごほっ」
激しく咳き込みながら空気を肺に取り入れ、テオはリュディに目を向けた。
彼女はパルの腕の中でぐったりしている。
「げほっ なんだよ……これ……」
『ピゥ……』
喉を押さえて咳き込むテオの腕を、ピィが心配そうにさりさりと舐め、パルは泣きそうな顔をしている。
「……とにかく……街から出よう……仲間が帰って来る前に……」
「……分かった」
パルの嗅覚によると他に仲間が3人は居る筈だ。
こんな異常な状況ではまともに説明しても聞いてもらえそうにないし、何よりパル達はこの事を隠しておきたいようだ。
「コイツは?」
親指で後ろの男を指したテオに、パルは首を横に振って見せる。
多分、手遅れ……という事だろう。
テオはため息をついて何とか立ち上がり、外套を着せられたリュディを抱き上げた。
分からない事だらけだが、2人を放ってはおけない。
死にかけていた所を助けて貰ったのだから、これは恩返し。
3人は廃虚を出ると、裏路地を使って砂漠へと旅立つ。
真っ昼間に行動する者は1人も居らず、3人が街を出た事を他の者に気づかれる事は無かった。
「こりゃまた凄まじいな……」
エザルの警備隊が廃虚の地下で見つけた蔦植物は、砂漠では珍しい種類だという。
「いやいや、本当に素晴らしいです♪」
呑気な声で答えたのはどこからかやってきたらしい植物学者。
20歳ぐらいだろうか……長い黒髪をひとつにくくり、緑色の目をらんらんと輝かせていた。
「素晴らしいではありませんよ、ランス様。お一人亡くなっているんですよ?不謹慎です」
植物学者の横でぷんすか怒っているのは助手であろう少年。
11歳か12歳ぐらいの少年で、柔らかそうな蜂蜜色の短い髪に紫色の目。
多分、どこかの貴族のお坊ちゃんが道楽で植物の研究をしており、少年は従者か何かでそれに付き合わされている……といったところだろう。
「ああ、そうだよね……すまない」
ランスと呼ばれた学者は素直に謝り、死者に送る印を結んで静かに祈りを捧げた。