君を諦めたくない1-8
俺が久留米の気持ちを知ったのは、芽衣子と付き合い始めてすぐのことだった。
俺が久留米のアパートでゴロゴロしながら漫画を読んでいて、奴が煙草をふかしながらテレビをボケーッと観ている時のことだ。
テレビの中の賑やかな笑い声をバックに、久留米はまるで“腹減った”と呟くくらい自然に、
「……オレ、芽衣子のことマジで好きだったんだよな」
と、ポツリと言った。
独り言だったのか、俺に向けて言ったのかはわからなかったけど、その言葉は俺の頭をかち割るほどの衝撃を与えた。
そしていつの間にか顎を伝っていた汗を手の甲で拭い取ると、俺は身体を起こしてベッドに座り直し、久留米の背中を見つめた。
テレビの画面は脳天気なお笑い番組が流れていたけど、全く笑えなかった。
久留米の身体を白い煙が静かに包んでいる。
久留米が芽衣子を気に入ってるのは気付いてたけど、まさか本気だとは思わなかった。
軽い気持ちで芽衣子の告白を受けたことを後悔してしまい、俺は下を向いて黙り込んだ。
即座に、やっぱり付き合うのをやめようかという考えが頭を掠める。
でも、久留米は俺の頭の中を見透かしたように、
「まあ芽衣子が好きなのはお前なんだから、オレがいくら好きでいたって仕方ないんだ。
それにアイツが幸せなら、オレはそれで充分なんだから、芽衣子のこと大事にしてやれよ」
とだけ言うと、テレビを観て笑い出した。
久留米が芽衣子に対する想いを俺に漏らしたのはこれが最初で最後だった。