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アイツがあたしにくれた夏
【コメディ 恋愛小説】

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なんか、ヘンですよ?-3

「小夜さんって鈍いって言われるでしょ」


「はあ!?」


大して親しくもない吉川くんの口から出た突然の暴言。


しかも絹子同様、やけに気色の悪い含み笑いなんかしてるし。


そんな失敬な輩には、片眉を上げてヤンキーのごとく凄みを聞かせて応戦してやる。


なのに吉川くんってば、クスクス笑って絹子に「こりゃ本物だわ」と耳打ちするだけ。


笑われてる理由がわからないと苛立ちはマックスだ。


だからと言って、吉川くんに掴みかかるわけにはいかないから、その矛先は必然的に絹子の方へ。


「おい、バカップル! 言いたいことがあるならハッキリ言え!」


バイト中にも関わらず絹子に掴みかかろうとしたけれど、彼女はそれをするりとくぐり抜けてすかさず吉川くんの背後に隠れてしまった。


そして彼の身体から顔だけをチラリと覗かせると、チョロッと赤い舌を出し、


「まあまあ、そう荒れなさんな。真面目に働いていれば、きっと神様がご褒美くれるって」


なんてイタズラっぽく笑った。


「そんな気休めいらないから」


ジロッと絹子を睨むと、すかさず吉川くんの腕に自分のそれを絡ませる。


「きゃあっ、小夜が怖ぁい。ねえ、早く花火見に行こ?」


もう、イチャイチャベタベタ暑苦しいったらありゃしない!


とは言え。


「さっさと行け!」


あたしは犬を追い払うみたいに手を振るしかできない。


いくらあたしが口喧嘩で勝ったところで、彼氏と花火大会に行く絹子には幸せメーターみたいなものがあったら明らかに敗北者だから。


だから口で言い負かしても虚しいだけなんだ。


吉川くんに腕組みした絹子は、ニッと小さい歯を見せると、


「それじゃあたし達はそろそろ退散するわ。んじゃ小夜、『頑張って』ねえ」


とあたしの肩をポンと叩いた。


わざと「頑張って」を強調した所がムカついて、あたしは思わず、


「キーーーッ!!」


と雄叫びをあげかけた、その時。


「ほら、猿みたいに吠えてねえで、サッサとカウンターに戻ってウォッシャーやれ」


と、ほうきとちりとりを片付けてきた駿河があたしの腕をガシッと掴んでカウンターへと連行していった。


遠ざかっていく絹子と吉川くんの姿。


そのニヤニヤ顔は、花火大会だと言うのにバイトなんかしているあたしをバカにしている笑みなんだろうな。


……ちくしょう、独り身の恨みは怖いんだぞ!


駿河に連行されながらも、あたしは絹子がこの花火大会で靴擦れ(下駄でもそう言うのだろうか)を起こしますように、とささやかな呪いをかけた。








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