なんか、ヘンですよ?-2
そんなあたしの悲痛な心の叫びはどうやら無意識のうちに、声に出ていたらしい。
絹子と吉川くんの苦笑いが目に入ったのと、頭に衝撃を受けたのは殆ど同時だった。
「痛あっ!」
悲鳴と共に後ろを振り向けば、黒トレイを片手に持った駿河の姿。
「男が欲しいなんて仕事中に喚くな、アホ」
駿河の言葉に辺りをキョロキョロ見やると、確かにお客さんがあたしを見てクスクス笑っていた。
やり場のない怒りと恥ずかしさをどうしていいかわからなくて、半ば八つ当たり気味に、顔を真っ赤にして駿河を睨む。
「何もトレイで叩くこたないでしょうが!」
「いつもの如く現実逃避してたから連れ戻してやっただけだっての。男が欲しいだなんて恥ずかしいこと言ってサボってんじゃねえ、さっさとカウンターに戻れ」
言い方は非常にムカつくんだけど、的を射ているだけに何も言い返せない。
下唇をグッと噛み締めて怒りをこらえているあたしから、駿河はほうきとちりとりをヒョイと奪うと、そのまま用具入れに向かって行ってしまった。
けっ、嫌な野郎だわ。
あたしはそんな奴の後ろ姿に思いっきりあっかんべー。
「小夜ー、真面目に働け」
そんなあたし達のやり取りを眺めていた絹子は、口の横に手をあてて、そう茶化してきた。
「うるさい! 脳天気に彼氏と花火大会行く奴に言われたくないっての!」
こんな浮かれポンチに、花火大会を男の子と行くという、ささやかな夢すら叶わなかったあたしの気持ちなんてわかるまい。
ムキーッと歯を剥いて絹子を威嚇してみたけれど、彼女は吉川くんと何やらヒソヒソ話をしてるだけ。
やがて吉川くんは、残り少なくなっていたアイスコーヒーを一気に飲み干すと、恨めしそうに絹子を睨むあたしを見てニッコリ笑った。