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アイツがあたしにくれた夏
【コメディ 恋愛小説】

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なんか、ヘンですよ?-10

「ちょ、駿河! 何言って……」


まさかの駿河の発言に、おじさんの存在すら忘れて奴に詰め寄りそうになる。


すると、駿河はあたしをチラリと見ると軽くウィンクしてみせた。


――いいから、俺に任せとけ。


おそらく駿河はそう言いたかったのだろう。


でもあたしは、初めて見た駿河のお茶目な仕草にボッと顔が熱くなってそのまま硬直してしまったのだ。


……カワイイんですけど!


こんな場面なのにイケメンにときめいてしまう自分の情けなさったらない。


駿河はそんなあたしに気付かないまま、あんぐりと口を開けたままのおじさんに再び向き直る。


表情はすでに氷のように冷たくなっていて、この切り替えの早さには舌を巻くばかり。


「すいません、仕事中に私情を挟むのはダメだってわかってるんですけど、人の彼女が侮辱され、馴れ馴れしく触られて、セクハラされてるのを見ると、どうにも我慢がならなくて……。仕事が終わったらコイツをどうするつもりだったんです?」


「え、いや、あの……」


すっかりうろたえるおじさん。まさかバカにしてた女にこんなかっこいい彼氏がいたなんて、と言いたげな顔で何度もあたしと駿河の顔を交互に覗き込んでいる。


「コイツに謝ってください」


「は、何でオレが……」


「傷付けたんだから、当然でしょう。お客様だからって何をしてもいいわけじゃない。それに個人的にコイツの彼氏として、あなたの行為は許し難い。謝っていただきます」


それでも小声でぶつくさ文句を言うだけのおじさんにしびれを切らした駿河は、チッと舌打ちをしてから、


「……謝れや」


と低い声でボソッと呟いた。


「ひっ!」


そのドスのきいた声に、おじさんは酔いが覚めたように目を大きく見開いた。


駿河は無言でおじさんを凝視するだけ。


張りつめた沈黙があたし達の中で流れていく。


やがて観念したのか、あたしの方を見ると、


「ね、姉ちゃん……、さっきは悪かったな。冗談だから気にしないでくれ、な?」


と、早口でまくし立てると急いで店を出て行った。


嵐が過ぎた途端、力がヘナヘナ抜けて行く。


ずっと固唾を飲んで見ていた他のお客さんも、微妙な空間が居心地悪かったのか、ガタガタと席を立って帰り支度を始めている。


そんな中、スタッフルームのドアがガチャリと開かれたかと思えば、店長のご機嫌顔。


「いやあ、今日の売上は目標を大きく越えました!」


何も知らない店長の能天気具合が羨ましくてならなかった。


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