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アイツがあたしにくれた夏
【コメディ 恋愛小説】

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なんか、ヘンですよ?-1

ジリジリと焼けつく太陽は遮るものなんて何もなく、もう夕方だというのにその威力は衰えない。


夕日に反射してオレンジ色に染まった入道雲を見上げては、チッと舌打ちを一つ。


……雨降ればよかったのに。


心の中で毒づいていたあたしは、店の前の掃除を終えると、ほうきとちりとりを持って中に入った。


店に入れば、コーヒーの香ばしい匂いとエアコンによる心地いい冷気と、……うざいほどひしめき合ってるカップル達。


浴衣を着たり、とびっきりのお洒落をしたりと、とにかくチャラチャラ浮き足立ってるバカップル達を尻目に、用具入れに向かおうとした所で背中をポンと叩かれた。




「何しに来たのよ、このくそ忙しい時に」


ジロリと絹子を睨んでやるけど、彼女はそんなの気にも留めずにニシシと笑うだけ。


「いやあ、あたしの浴衣姿があまりにきまり過ぎたから、小夜に見てもらいたくなって」


そう言って丸いスツールからピョンと飛び降りた絹子は、ご丁寧にくるりと一回転して、その自慢の浴衣姿を披露してくれた。


紺色の生地に金魚柄、という少し茶目っ気のある浴衣に、濃いめのピンクの帯。童顔で可愛い顔した絹子の雰囲気にぴったりだ。


でも、ゆるく巻かれた髪の毛をラフに束ねたアップスタイルは、細い首が露になって、そのアンバランス加減がなんだかやけに色っぽい。


なんだかいつも以上に可愛く見えるのは、おそらくそれだけではないはず。


そう言ってあたしは、絹子が座っていたスツールの向かいに腰掛けてニコニコ笑う彼氏の吉川(よしかわ)くんの姿を一瞥した。


お洒落で可愛い絹子と、ちょっとたよりなさげなぽっちゃり気味の吉川くん。


正直、絹子ならもっとかっこいい彼氏を作れるんじゃないかって思うんだけど、


「ギター弾いてるときの隆司(りゅうじ)、めちゃめちゃかっこいいんだ」


なんて、すっかり彼にまいっちゃってるみたいだから、充分幸せなんだろう。


その証拠に、


「絹子、浴衣姿すっごい可愛い」


と、頬杖ついて吉川くんが微笑めば、絹子の頬はバラ色に染まり、可愛さが二割増しになる。


「おい、バカップル。さっさと席開けろ」


あたしがそう絹子に悪態を吐いても、当の二人は微笑みあって、完全に二人だけのオンステージ。


アホだなあって思う反面、こんな二人を見てると改めて叫びたくなる。


チクショー! 彼氏が欲しい!!


……って。



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