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back to the ground 〜十年後の僕へ〜
【青春 恋愛小説】

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back to the ground 〜十年後の僕へ〜-4

点滅する青信号を見ながら考える。
すっかり陽の落ちた放課後。
誰もいなくなったグランドの真ん中で、大の字に寝転がって星を見上げた、あの日。
「何やってんだ?」
ピクリともしない僕を心配したのだろう。同じサッカー部で同じポジションを競っている菊池に声を掛けられる。
「寝てるんだよ」
「そりゃ見れば分かる」
「じゃ聞くなよ」
何も言わず、菊池は僕の横に胡坐をかいた。
「今度の大会で、最後だな」
その言葉に、暫く間を置いて答える。「あぁ」
「最後は、1位、取りたいな」
「・・・あぁ」
これまで多くの大会で、僕らサッカー部は銀メダルを獲得した。中学創設以来、最強だと誰かが言った。けれど、優勝の文字を噛み締めたことは無い。
「正直さ、お前がいなけりゃって思ったときもあるんだ」菊池は言った。
「そうか?似たもの同士だな」
一年の頃は菊池がレギュラーだった。
そして二年になると僕が、そのポジションを奪った。
テクニックは彼の方が何枚も上手だろう。体力だってきっと彼のほうがある。
「けれど何でお前なんだ?」いつか紅白戦で相対した時、菊池は呟いた。
三年になると、菊池は後半二十分過ぎから出場するスーパーサブ的な役割を担う。そしてそこで交代させられるのは、決まって僕だった。
「今なら分かるよ」菊池は、満点の星空を見上げて。
「僕には分からないね。君のほうが上だよ。皆知ってる」僕も同じそれを見上げて。
「例えば、あの星」一際輝く、その星を指差して言う。
「俺はあの星を目指した」
そうだろう、菊池のプレイには華がある。
「だけどさ、輝けば輝くほど、その周りには深い影が落ちる。俺のポジションには不必要な輝きらしいよ」
「それは、僕のプレイが地味だってことを言いたいのかな?」
ククク、と笑う。
「簡単に言えば、俺は自分を生かすプレイ。お前は人を生かすプレイ。一緒にプレイしてて楽しいのは後者だろうね」
僕は何も言わず、暗闇を感じていた。
人を、生かす。
あぁ、そうか。
「成る程、それは君の言うとおりかもしれない」
―――― だから僕は、君に憧れていたんだ
菊池は驚いた声をあげる。「俺に憧れる?」
「そうさ。サッカー選手なら、ゴールを決めたいし、ドリブルで何人も抜きたいし、綺麗なパスを通したい。そんな願望を誰もが持つ。僕は君になりたかった。僕のプレイは、人を生かすだろう。けれど僕はそれじゃ楽しくない」
「皮肉なもんだな」
「そうだね」
人が必要とするのは僕で、僕が必要とするのは君で。
「サッカーは続けるのかい?」菊池は聞いた。
「・・・いや。次の大会が最後」僕は答えた。
世間が必要とするのは、スター性を備えた君だ。
生ぬるい風が吹いた。それは僕と彼の頬を抜け、グランドを駆けた。
「そうかい。それじゃ、是が非でも優勝しなくちゃな」
誰に言うでもなく、菊池は呟いた。
優勝、しなくちゃな。
もう一度。
暗闇に溶けるように、言葉はゆらゆら揺れて、ゆっくりと霧散した。

最後の大会も、僕らは決勝まで勝ち進んだ。
けれど、やはりと言うべきなのだろうか。
僕らは優勝することが出来なかった。
決勝戦の前半早々に退場者を出したチームは、立て直すことも出来ずに前半だけで0対5の点差を付けられた。
それは完全な負け戦だった。
その時点で後半の三十分間だけが、このチームとしての残された時間になってしまった。


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