マツリノヨル-4
テオは曖昧に答えて土嚢を積んだ手押し車を動かす。
(な〜にやってんだか……)
2、3日ゆっくりしたら出発するような事を言っていたのに、何故まだエザルに居るのか?
エザルに着いて別れてから、もう10日は経っている。
(……会ったら食われるかなぁ〜…)
パルの踊りは見てみたいし、パルが踊り担当ならリュディが音楽担当なのだろう。
あのリュディが歌うとか、なにか楽器を奏でるのであれば、非常に興味がある。
(見つからないように遠くから見てみるか)
テオは手押し車の持ち手を握り直し、早めにノルマを達成するため仕事を急ぐ事にしたのだった。
水が湧き出ているせいか、エザルは砂漠の中なのに気温が安定している。
と言っても他よりは、という意味でだ。
やっぱり昼間は熱いし、夜は寒い。
それでも、寒暖差があまり無いので過ごしやすい。
エザルの中心にある泉を囲うように出店が並び、領主の舘の庭が開放されて舞台が設置されていた。
この祭りは雨期前に行われる祭りで、雨期にしっかり雨が降るように祈願するらしい。
なので前半は水の神に送る祈りや舞いが披露され、厳かな雰囲気。
それが終わると一気にどんちゃん騒ぎになる。
「兄ちゃん!焼き鳥買ってきなっ!」
「揚げ饅頭いらんかねぇ〜」
「エザル名物、蟻蜜だよ」
お馴染みのものから珍しいものまで、沢山の露店から賑やかな声がかかる。
テオはその中からスムージーを選び、それを啜りつつ祭りを目で楽しみ領主の舘へ向かった。
舘には壁が無く、敷地をぐるっと囲む形にサボテンが植えられている。
壁なんかで囲うと風を遮るのでエザルでは壁は作らない。
その代わりのサボテンはトゲが鋭いので泥棒なども防げるし、いざという時は食料にもなるので最高なのだ。
そのサボテンにも飾りが施され、小さいランタンがぶら下がっている。
庭の中心には舞台が設置され、今は演劇が行われていた。
「テオ!」
観客席からサムが大きく手を振る。
見ると他にもバイト仲間が来ていた。
「来たんだな」
「ああ、まあ……」
「やっぱ、パルティオちゃんが気になったんだろぉ?」
「いやぁ、うん、そうだな」
色んな意味で気になる。
「丁度良かった。この後だぜ」