マツリノヨル-2
「旅の幸運をっ!」
そして、パッと大きく手を振りながら雑踏へと消えて行ってしまった。
「あ〜あ……残念〜」
パルは振っていた手を下ろしてくるっと振り返る。
目の前には真っ赤になった顔のリュディが、キスされた頬に手を当てて固まっていた。
「ウ〜ブ〜」
「…………」
ニヤニヤして反対の頬をつつくパルに、ハッと我に返ったリュディは一気に不機嫌な顔になるのだった。
サンドワームの残骸を思っていたより高値で売る事の出来たテオは、エザルでバイトを探す事にした。
大きな都市では冒険者が集まり易く、それを当てにしたバイトの募集も多い。
日雇いの肉体労働から、1ヶ月契約の事務仕事……他にも街の警備の仕事なんかもある。
この場合はある程度の実力と信用が無いとダメなのでテオには無理だが、熟練した冒険者にだけ回る仕事なので何となく憧れる。
バイトは冒険者ギルドに行くと紹介してもらえる事になっていた。
冒険者ギルドは昔冒険者だった人達や、冒険者に世話になった人などが中心となっている組合。
エザルでは元冒険者が経営している宿屋兼食堂『砂の城亭』がそれだ。
「らっしゃい。1人かい?」
食堂に入るとガタイの良い50歳過ぎの店主が野太い声でがなる。
昼間っから酒を飲んで騒いでいる冒険者ばかりなので無理もない。
「1人!部屋ある?」
テオも負けじと大声で答えた。
「おう。一番ボロい部屋だが構わんか?」
「良いよ!」
「何泊だ?」
「分かんねぇ!バイトしながら仲間募集ってとこっ!!」
「ハハハっ!なら1日分ずつ払ってくれ。前払いだ」
「了解」
テオが代金を払うと、店主はいくつかのバイトを紹介してくれた。
その中から日雇いのバイトを選んだテオは、紹介状を貰って部屋へと上がる。
ボロいとは言っても砂漠の野宿に比べたら天国。
荷物を置いて外套とブーツを脱ぐだけでスッと楽になった。
「ふわぁ……幸せだぁ……」
硬いベットなのに雲の上に居る様な幸福感……久々に心休まる。
睡魔に襲われたテオは、そのまま目を閉じて夢の国へと旅立った。