投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

a village
【二次創作 その他小説】

a villageの最初へ a village 111 a village 113 a villageの最後へ

I-8

「──友人は衰弱しきってました。でもね、医者に診せたくても、食わせてやりたくても、暖めてやりたくても……金も無くてね。
 私達は何もしてやれずに、友人は三日後に逝ってしまったんです……」

 戦争と言う狂気の中、国の為に死ぬ事は尊いとされた時代。
 そんな在り方に疑問を持つ者を探し出す為、人々は互いを監視、密告し、そして排除する事を善しとした。
 国中が外界との関係を断ち切り、歪んだ知識によって洗脳される事で、行いを正当化したのだ。

「──さっきの麺汁は、そいつがよく作ってくれたんです。
 あれから随分経つのに、未だに忘れられない」

 雛子には慰める言葉も無く、唯、瞳を潤ませるだけだった。

「すいません……こんな話、するつもりじゃ無かったのに」

 林田が不徳を詫びた。すると雛子は、彼の傍へと近寄り、その顔を胸に抱き締めた。
 何故だか、そうせずにいられ無かった。
 突然の事に林田は声も無い。彼の頬にぽたぽたと、滴が垂れて来た。

「久しぶりです……こんな風に抱かれるのは」
「……」
「卑怯ですよ、雛子先生は」
「どういう……意味?」

 二人が離れた。林田は少しにやけて。雛子は俯き、頬を染めている。

「だって、下心があって訪ねてるのに、こんな事されちゃ何も出来やしない」
「なっ!」

 たった今まで、哀れみの涙を流した瞳は、一変、怒りに震えた。

「心配して損しました!身の上話を、気の毒だと思った自分が馬鹿みたい!」

 怒り心頭に発すとは、正にこの事だろう。雛子は林田に対して、思い付く限りの罵詈雑言を浴びせつくす。対して林田は子守唄でも聞く様に、穏やかな顔で受け流した。

「ちょっと喋り過ぎたようです」

 一頻り雛子の鬱憤を聞いた林田は、立ち上がると帰り支度を始めた。

「今夜は、もう帰ります」

 雛子は未だ、怒りが治まらないのか見向きもしない。

「もう、来なくて結構です」
「そう言わずに。あっ!後で風呂に入って下さいよ」

 林田は、そう言い残して玄関を出て行った。
 一人になった雛子。ちゃぶ台には、二人分の食器が残されたままだ。

「全く、もう!」

 突如、雛子は立ち上がった。土間のサンダルを突っ掛けて、家を飛び出した。


a villageの最初へ a village 111 a village 113 a villageの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前