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a village
【二次創作 その他小説】

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I-1

 父親の三朗が美和野村を訪ねて一月程経ったある日、

「準備体操はじめ!」

 子供逹は、雛子の掛け声を合図に国民体操を始めた。唯、その場所は学校裏を流れる川の辺であり、男子はパンツ一丁、女子がシミーズと言う出で立ち。雛子も又、半袖シャツにモンペを膝までたくし上げた格好だ。
 梅雨明けと共に、体育の授業は水錬となった。が、村には町の学校の様にプールが無く、代わって川で水錬を行うのを習わしとしていた。

「いち!に!さん!し!にーに!さんし!」

 小さな分校にとって、プールは高額な代物だ。川で泳ぐのも致しかた無いのだろうが、未だに下着姿で泳ぐのは如何な物かと雛子は思った。
 彼女も疎開先である長野の小学校で、川で水錬をやる際、下着姿のままだったが、男子の目が気になって、非常に恥ずかしい思いをした事を覚えてる。
 しかし、それは雛子に限った事で、学校に入る前から同じ川で遊んでた女子の級友逹は、男子の目など気にも留めて無かった。
 事実、此処の子供逹も異性の目を気にする様子も無い。そう言う物だと受け入れてる。
 しかし、“もう一つの願い”を叶えたい雛子としては、この状態は不味いのだ。

(兄さんに頼んだけど、間に合わなかったな……)

 三朗の指導の下、兄、光太郎への“依頼状”を認(したた)めたあの夜。実は、依頼状は一通だけでは無く、もう一通あった。
 その一つが、子供逹への水着を無心する事である。

 文部省は去年から都市部の学校に限り、指定の水着を着るよう指導を開始した。
 それを知った雛子は、給食の試験校として兄の役に立った“代償”に、子供逹への水着の供与を手紙でお願いした訳だ。
 しかし、依頼状を送ってから一月になるが、未だ無しのつぶてであった。
 最初の内は「梅雨の山路はぬかるんで危険だから」と自分に言い聞かせていたが、最近は「やっぱり無理強いだったのか」と、水着は半ば諦めていた。

「それじゃあ、一人ずつ平泳ぎから!」

 水着の方は、また別の手を考えれば良い。
 だが、もう一通の“本命”である依頼の方も、何の音沙汰も無い事に、雛子は焦れていた。
 あの日、父親の三朗が雛子に言った言葉は、彼女を勇気付けて背中を押してくれた。
 当然、光太郎も、直ちに良き対応を示してくれると思い、何時、調査が始まっても急迫しない様にと、候補地の選定も行ったのだが、

(本当に兄さん、どうしちゃったのかしら……)

 兄への不穏により、雛子はつい、授業中にも考えを巡らせる様になっていた。






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