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「ふたつの祖国」
【その他 推理小説】

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前編U-7

 目的地へと近付いたクラウンは、速度を緩めてナビゲーション・システムを用い、慎重に車を進めて行った。
 街道を右に折れ、下り坂を百メートル程進ませると、団地の前に導き出された。
 団地入口に設置された周辺地図で、届け出人である娘の家の詳細な場所を確認し、団地内へと車を進ませた。

「この……辺りですね」

 二人は車を降り、電柱の住所表示から該当する家を特定しようとしたが、その場所は他人の持家で、届け出人である林原直子の名前は無かった。

「どういう事だ……?」

 通常、届け出人については、免許証やパスポート等の身分証を確かめるだけで、余程の事が無い限り裏まで取らない。
 つまり、“虚偽”の届け出が可能であり、島崎逹はまんまと騙された事になる。

「余程、老人の遺体を解剖されると困るみたいですね」
「そうだな……」

 島崎は考える──何物かが、老人を“強制的に排除”した。
 この場合の何物かとは、件の殺人実行犯だろうか?

(それだと、辻褄が合わない)

 奴等は、酸鼻たる殺害方法を用いた上で、遺体を故意に遺棄した。裏を返せば“発見してもらう事”を前提とした犯行だと思われる。
 そんな奴等が目撃者の口を塞ぐばかりか、その遺体を巧妙に隠すだろうか?否である。

(殺害方法が、余りにも食い違う……)

 片や感情に任せたやり方であり、もう一方は、ポリシーさえ感じさせるスマートさ。とても同一犯とは感じ無い。

「実行犯以外の何物かが、我々の邪魔をしている」
「ええっ!」

 島崎の出した結論は、岡田を仰天させた。

「それは、少し飛躍し過ぎでは?」
「しかし、そうでなければ辻褄が合わない」

 到底納得出来ない事柄だが、今は議論を交わしている場合では無い。

「一旦、署に戻って対応を考えましょう」

 岡田は車をUターンさせ、元来た道を戻り始めた。
 人の推測とは、往々にして“望む方向”に偏り勝ちである。だから岡田は個人の勘に頼らず、チームで得た情報を様々な角度から精査し、抽出された結論を大事にしてきた。
 そんな岡田から見て、島崎の推論は危険に思えた。
 だが、そんな彼女にも例外は有る。班長、佐野の導き出す答えだ。
 彼の下で働いて感じたのは、その卓越した洞察力であり、導かれる推論は狂いが無い。だからこそ一刻も早く署に戻り、彼に意見を求めたかった。

(仮に佐野班長が島崎氏と同意見だとすれば、直ちに行わねばならない事が有る……)

 岡田の駆る特殊車両のクラウンは、街道を北へと向かって走った。






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